実際に、水難事故の現場では泳げたはずの人が命を落とすケースも少なくない。一方で、背中を水面に向けて浮く“背浮き”のような基本的な対処を知っているだけで、生存率が大きく変わるともいわれている。
つまり、水泳教育の本質は“速く泳ぐこと”だけではなく、“水の中で自分の命を守る力”を身につけることにあるように思える。しかし、先述したように現代の子どもたちは全身を水の中に浸ける機会そのものが減少している。
果たしてこの状況で、現代を生きる子どもたちはどうやってその力を習得すればいいのか。
学校任せにできない時代、家庭でできること
今の子どもたちは、スイミングやマリンスポーツなどを習っていない限り、日常生活で水と触れ合う機会がほとんどない。自校での水泳授業の廃止通知を受けた直後から、家庭でどのような対処ができるかリサーチしたところ、まず実践すべきは“できるだけ低年齢のうちから水に慣れる経験”を日常の中で増やすことだという情報に行きついた。
必ずしも大きなプールである必要はない。家庭のお風呂や浅瀬の水場など、最初は身近な場所から始めて、以下の基本ステップを踏むことが大切だという。
・水に顔を浸ける
・水中で浮く
シャワーを顔に当てる、水中で息を吐くといった小さな経験を積み重ねることで、子どもたちの水への恐怖心は少しずつ薄らいでいく。さらに重要なのは、“泳げるようにすること”だけを目的にしないことだ。
前述の通り、水難事故の現場で生死を分けるのは、必ずしも泳力の高さではない。むしろ、突然の出来事に直面したときに冷静さを保ち、“浮いて待つ”という選択ができるかどうかだ。だからこそ私たち親が子どもと関わる際は、“どれだけ速く長く泳げるか”ではなく、“どうやって水中で安全に体を保つか”という視点を持たなければならない。
たとえば、お風呂で仰向けになって体を浮かせてみる、ペットボトルを抱えて水に浮く練習をするなど、遊びの延長で“浮く感覚”を体験させることは、自分の命を守るための基礎につながる。こうした経験は決して特別な設備がなくても、日常の中で少しの工夫によって取り入れることができるはずだ。
また、近年では自治体や民間団体による『着衣泳』や『水難事故防止教室』なども各地で実施されている。学校で泳ぎを学ぶ機会が減っている今だからこそ、こうした外部の学びの場を積極的に活用することも一つの選択肢となるだろう。
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【習わせていないから何もできない?】
