「最大55%」は最高税率の話で、所得が少ない層にはもっと低い税率が適用されている。ところが、一律20.315%の分離課税に変わると、これまで20%以下で済んでいた層の負担は増える。
分岐点は家族構成で変わる。例えば、暗号資産で100万円の利益が出た場合、扶養家族のいない会社員なら、給与年収520万円前後が分岐点の目安になる。これを下回れば、総合課税のままのほうが税負担は軽い。配偶者控除や扶養控除が効く世帯なら、分岐点は年収580万〜700万円程度まで上がる。扶養する家族が多いほど、分離課税の恩恵を受けにくい。
国が法改正に踏み切った本当の狙い
国内の暗号資産取引業者の稼働口座は約880万、総口座数は約1400万にのぼる。一方、暗号資産の利益を確定申告している人は約8万人にとどまるとみられる。
申告に至らない背景には、計算の複雑さに加えて、「そもそも本人が全体像を把握していない」という事情もあるという。複数の取引所を使い、ウォレットを行き来させながら売買を重ねていれば、年末の集計は大仕事になる。
分離課税の導入は、この申告漏れを埋める仕掛けでもある。「日本円に換えたいなら、最終的には国内の取引所に持ってくるしかない。特定暗号資産にして国内取引所で売却すれば20%。支払調書(取引所が顧客の売買記録を税務署に提出する書類)も出るし、計算も楽なはず」。八木橋氏は国の意図をそう読み解く。国内取引所に資金を集約させ、捕捉率を上げる構造である。
国税庁もすでに動き出している。「お尋ね」と呼ばれる文書がそれだ。国内取引所にまとまった残高を持ちながら申告履歴のない人に、12月から翌年1月にかけて税務署から書面が届く。税務調査の一歩手前の通知で、これが届くと過去分も含めて申告書が出てくるケースが多いという。
28年には利益確定が集中する見通しだ。含み益を抱える投資家の間で「分離課税の適用を待ってから売る」動きが広がっているからだ。税率が55%から20%に下がるとなれば、待つ理由は十分にある。
ただ、この「待つ戦略」がそのまま通る保証はない。現時点の大綱の書きぶりを素直に読めば、28年以降に売却したものが分離課税の対象になる。取得した時期ではなく、売ったタイミングで決まる、という話だ。
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【「28年に利確」で思考停止は危険】
