供給が止まれば社会が止まる、現代社会を支える半導体
――現代社会における半導体の位置づけを、どのように捉えていますか。
最近は、半導体が「産業の脳」と例えられることが増えました。その言葉のとおり、まさに「部品」から「社会全体を動かす基盤」として、技術革新のスピードそのものを左右する存在へと位置づけが大きく変わりました。
かつては家電製品の制御などが主な用途でしたが、今はそれだけではありません。経済活動のあらゆる場所に入り込んでいます。自動車一つを取っても、搭載される半導体の量も重要性も増しています。
さらに、私たちが日常的に使う通信サービスや物流、決済の仕組みも、見えないところで半導体に支えられています。表に見える製品だけでなく、社会を裏側から動かす基盤として、半導体の重要性は以前とは比較にならないほど高まっています。
もしその供給が止まれば、製品が作れなくなるだけではなく、生産性やサービス水準、さらには国際競争力そのものが大きく低下します。それほどのインパクトを持つ存在です。
――半導体をめぐる環境変化の中で、大きなインパクトをもたらしている要因は何でしょうか。
やはりAIの急速な台頭です。あらゆる産業やサービスにAIが活用され始めています。そのAIを動かすためには、高性能な半導体が必要です。AIの活用能力そのものが、企業の競争力や国全体の経済力に直結する時代に入ってきたといっていいでしょう。
とりわけ、生成AIの普及によって、従来以上に膨大な計算処理と電力効率の両立が求められるようになりました。単に高性能であればよいのではなく、限られた電力の中でいかに多くの処理をこなせるかが問われています。そうした意味でも、半導体の進化は社会全体の進化と直結しているのです。
しかも、半導体は非常に速いスピードで進化しています。2年で世代が進化するといわれるほどで、技術は瞬く間に更新されます。現在、2ナノメートルという極小サイズの最先端半導体の量産化が、グローバルな最新トピックとして注目されていますが、すでに次の世代が見据えられています。この進化の流れに対応できるかどうかは、日本にとって極めて重要です。
――半導体をめぐっては、製造だけでなく、装置や材料、資源、人材まで含めた対策が必要だといわれます。日本の現状をどうみていますか。
日本には大きな強みがあります。例えば、半導体の土台になる薄い基板であるシリコンウエハーや、半導体を作るための製造装置、半導体の実装に欠かせない基板材料など、世界市場で高い競争力を持つ分野が少なくありません。これは日本の非常に重要な資産です。
日本が越えるべき3つの壁、多品種少量生産に活路あり
――国内に先端半導体の製造拠点を築く動きが出てきていますが、産業戦略上どのような意義があるとお考えですか。
日本は装置や材料の分野で高い競争力を持っていますが、それを実際に使う先端の製造現場が国内になければ、その強みは海外へ流れていきます。開発の現場と製造の現場が近いからこそ、改善のスピードも上がり、新しい技術も育ちやすくなります。製造拠点を国内に持つことは、生産能力の安定確保に限った話ではなく、国益の観点から日本の産業基盤そのものを維持するうえで重要です。
――日本が半導体分野で競争力を高めていくうえで、克服すべき課題は何でしょうか。
大きく3つあります。1つ目は、一部の原材料を特定国に依存していることです。これは地政学上のリスクであり、供給網が不安定になれば、半導体産業全体が影響を受けます。そのため、製造工程で出るガスを再利用する技術や、使用済みの電子機器などから金属資源を取り出す都市鉱山の活用など、リサイクルで資源を循環させる取り組みが重要です。
2つ目は、半導体人材の不足です。とくに、回路を設計できるクリエーティブな人材が圧倒的に足りていません。日本国内の育成だけでなく、海外の優秀な人材と協働できる環境を整えることも含めて考える必要があります。
3つ目は、半導体企業の連携強化です。半導体は1つの企業だけで完結する産業ではありません。素材、装置、設計、製造、実装まで、多くのプレーヤーが連携して初めて競争力が生まれます。だからこそ、今の日本に必要なのは個別最適ではなく、全体をつなぐ総合力だといえます。
――日本は今後どのような方向を目指すべきだとお考えですか。
海外の巨大企業と同じ土俵で、大量生産だけを競うことが唯一の正解ではないと思っています。日本が目指すべきなのは、医療機器や次世代自動車、産業機械、農業機械といった、それぞれの産業ニーズに応じた半導体を、きめ細かく供給していくモデルです。
供給が数億個単位の製品向けの半導体だけが重要なのではありません。数万個、数十万個という規模でも、高性能で最適化された半導体が必要とされる領域は数多くあります。多様なニーズに応じた半導体をきめ細かく供給できることこそ、日本が強みを発揮しやすいはずです。
日本には、さまざまな現場にデータやノウハウが蓄積されています。それを生かしながら、適切な場所に、適切な性能と電力効率を持つ半導体を配置していく。そうしたエコシステムを構築できれば、日本が再び半導体分野で存在感を高めていく可能性は十分にあると考えています。