(5016・東P)
2025年3月の上場から約1年、JX金属が半導体材料メーカーとしての存在感を高めている。生成AIの普及を追い風に半導体材料の需要が拡大する中、同社は数々のニッチトップ製品の販売量を順調に伸ばしていることに加え、次世代材料への戦略的投資を並行して加速させている。ひたちなか新工場の建設、東邦チタニウムの完全子会社化※、Rapidusへの出資——と、矢継ぎ早に打つ手の先に見据えるのは、半導体・情報通信材料のグローバルトップメーカーのポジションだ。同社の現在地と長期ビジョンについて、代表取締役社長の林陽一氏に聞いた。
生成AI時代を捉える多層的な材料ポートフォリオ
JX金属は、銅やレアメタルを中心に、資源の確保からリサイクルまでの一貫したサプライチェーンの下、半導体の製造に使われる先端材料を広く手がける半導体材料メーカーだ。現代の産業を支える半導体の多くに、同社の材料が使われている。
代表取締役社長の林氏は「1つの巨大製品に依存せず、収益性の高い製品群を複数持つ事業構造が強み」と語る。年間10億円規模の利益を生む製品でも、業界トップクラスのシェアと高い利益率があれば主力製品たりうる。そうした製品を複数抱え、その中から50億円・100億円級に育つものが現れてくれればよいという。
「事業ポートフォリオの多角化こそ、JX金属らしさです。今は小さく見える事業でも、時代のニーズと合致すれば、いつでも主力へと成長する可能性を秘めています。だからこそ、一つひとつの技術を大切にし、市場の変化を広く見渡す。そのような、変化に強い組織へと進化できたのだと考えています」
その事業環境を今、生成AIの普及が大きく塗り替えている。生成AIの処理には膨大な計算能力が必要で、世界中でデータセンターの建設ラッシュが続く。その波は、特定の製品だけでなく、JX金属が手がける幅広い素材への需要ニーズを同時に押し上げている。
「データを記録する装置、情報をやり取りする通信装置、電力を安定供給する機器など、さまざまな部分で当社の材料が採用されています。その層の厚さこそが、JX金属の最大の特徴です」
生成AIの社会実装が進むほど、材料需要は構造的に膨らみ続ける。そう確信するからこそ、同社は次世代の技術開発の現場に今から入り込もうとしている。半導体の微細化技術が限界に近づく中、今後は複数のチップを組み合わせる実装技術の重要性が増す。そこでは既存材料の延長ではなく、機能の再設計や新たな材料の共同開発が求められる。
「次の世代では、今とは違う使われ方が出てくるかもしれない。そうなると、機能を変えなければいけない材料も出てくる。そのような情報にいかにしてアクセスできるかが重要です」
次世代の半導体産業を担うメーカーとの連携を深めるのも、そのためだ。2026年2月に公表したRapidus(以下、ラピダス)への出資や、各種コンソーシアムへの積極的な参画は、次世代の技術要件をいち早く把握し、材料開発に反映させるための布石である。
「ラピダスへの出資は、研究開発投資に近いです。多様なプレーヤーと関係性ができることで、今までにない知見が得られたり、次の材料開発につながったりする。そこをいちばん期待しています」
工場・資源・人材、攻めの投資で2040年のビジョン達成を
こうした成長戦略を支えているのが、既存製品の供給力強化に向けた大規模投資である。同社の主力製品であり、先端半導体向けに需要が拡大している半導体用スパッタリングターゲットについて、既存の生産拠点である磯原工場がほぼフル稼働に達する中、同社はこの3月、新たな生産拠点として茨城県ひたちなか市に新工場を開業した。まず建屋と初期設備を立ち上げ、その後、関連設備を増強する計画だ。これにより、生産能力は23年の約1.6倍に拡大する見通しである。
「データを記憶するメモリー半導体も、演算を担うロジック半導体も、いずれも非常に強い需要があります。このペースが続き、需要が生産能力を上回る前に、設備投資を前倒ししていく必要があります」
資源調達の強化にも余念がない。スパッタリングターゲットの原材料の1つであるタンタルの安定確保のため、ブラジルのレアメタル鉱山事業に参画。オーストラリアではレアメタル、レアアースの開発プロジェクトに出資し権益確保に動く。また、南米、オーストラリア、アフリカの3極に資源開発部門の技術者を配置し、有望プロジェクトへの参画の可能性を探っている。
「高い技術を持っていても、資源を他社に依存していれば、いざというときに製品供給が止まりかねません。資源の調達先を自ら確保することは、当社の競争力の根幹そのものです」
リサイクルへの取り組みも、単なる環境配慮の文脈にとどまらない。同社では、都市鉱山と呼ばれる使用済み電子機器や家電などのリサイクル資源から、金、銀、パラジウムといった貴金属やレアメタルの回収を行っている。そこにあるのは、先端材料の製造に必要な資源を、自社のリサイクルプロセスを活用して調達するという、合理的な発想である。
「資源確保から製品化までを一気通貫で担う垂直統合モデルの強靭さは、地政学的なサプライチェーンの混乱が常態化する現在、真価を発揮します」
さらに、人材・技術基盤の強化も急ぐ。東邦チタニウムの完全子会社化※も、技術獲得に加え、人材基盤を厚くする狙いがある。
「どれほど設備や技術が優れていても、最後に差がつくのは人です。半導体材料の競争は、突き詰めれば優秀な技術者をいかに集められるかの競争でもあります。だからこそ、ここで長く働きたいと思ってもらえる会社であり続けることが、これからの経営には欠かせません」
同社が40年に向けて掲げるのは、半導体・情報通信材料分野だけで2000億円の営業利益を稼ぐという長期ビジョンだ。その達成に向けた本質を、林氏はこう語る。
「新しい材料や技術を開発しようとする研究者が、真っ先にJX金属へ相談しようと思ってくれることが重要だと考えています。次の時代をつくる開発者に信頼される会社になること。それが、われわれの目指す姿です」
生成AIという巨大な波を、足元の業績拡大にとどめず、次の主戦場への足がかりへと転化する。上場から約1年を経たJX金属は今、その成長速度をさらに引き上げようとしている。
※ 2026年6月1日に効力発生
お問い合わせ
JX金属株式会社
東京都港区虎ノ門 2-10-4 オークラ プレステージタワー
Tel:03-6433-6000
https://www.jx-nmm.com/