知の探索を阻む「経路依存性」の呪縛
――「失われた30年」は終わるといわれながら、日本経済の閉塞感はいまだ解消されていないように感じられます。日本企業が直面している課題は何でしょうか。
入山 日本企業の大きな課題は、「経路依存性」です。経路依存性とは、過去の経緯や意思決定を踏襲してしまい、現在の選択肢に強い制約をもたらす現象のことです。
早稲田大学ビジネススクール教授 入山 章栄氏
企業は、いろいろな要素や仕組みがうまくかみ合うことで全体が回っていますので、どこか1つが時代に合わなくなってもなかなか変えられないんです。だから全体を変えなければいけないのですが、日本はこれまで一部分だけを変えようとしてきました。
例えばダイバーシティーがそうです。本当にダイバーシティーを実現したいなら、新卒一括採用や終身雇用、評価制度など、すべてを見直さなくてはなりませんでした。そうしないと多様な人材を採用できませんし、評価できないからです。でも、それができなくて中途半端になってしまっています。
その要因は、任期制にあると考えています。日本企業の経営者は、任期制によって短期間で交代するため、構造的にリスクを取った大胆な変革に取り組みにくいのです。結果、従業員の採用や評価制度も硬直化してしまい、目の前だけを見て動きます。そうすると、変革に必要な「知の探索」ができないのです。
中井 私たちは多数の日本企業のIT開発を支援していますが、経路依存性の弊害を感じています。どの企業も変革への意欲は高く、DX推進への投資も旺盛です。ところが、いざ変革をしようとすると、過去の仕組みが足かせになって進まないのです。
レガシーシステムの一部分を先進技術に置き換えても、DXが進まないのもその1つですが、深刻なのは人材です。既存業務にスキルを最適化してきたことで、新たな技術にキャッチアップし、プロジェクトをリードできる人材が圧倒的に不足しています。
リスクを取ってチャレンジする姿勢が変革に不可欠
――そうした課題を解決するため、経営者はどんな視点を持つべきでしょうか。
入山 最も重要なのは、リスクを取ることです。そもそも経営とは、明確な答えのない中で意思決定を行い、腹をくくって実行することです。企業にとって、経路依存性から脱却するのは大きなリスクですが、全体を変えるためには前のめりにチャレンジしていくことが求められます。
実は、ベトナムでFPTを創業したチュオン・ザー・ビン会長とは何度もお話をしているのですが、まさにリスクを取り続けている経営者だと感じました。FPTの急成長ぶりからも、経路依存性がなさそうに見えますが、実際はいかがですか?
上席執行役員 中井 巧氏
中井 私は10年前にFPTに参画したのですが、閉塞感がまったくなくて驚きました。一人ひとりの意欲が非常に高く、新しいことへ果敢にチャレンジしようという気風があり、私自身とてもワクワクしたのを覚えています。
FPTが大切にする価値観の中でもとりわけチャレンジ精神は強く、社員から「できません」という言葉はほとんど聞きません。
ベトナムは、「ドイモイ(刷新)」を掲げた市場経済導入政策を契機として急激な経済成長を遂げていることもあって、常に新しいことに取り組み、やり遂げるという意識が強く、それがFPTの企業文化にもなっています。
入山 なるほど。確かにベトナムの方はチャレンジ精神があると僕も感じます。ビン会長が「チャレンジの先にハッピーがあり、会社のハッピーは国のハッピーにつながる」という話をされていて強く印象に残っていますが、まさにそれを体現されているんですね。
日本企業とベトナム企業が共創する価値とは
入山 ただ気になるのは、日本にはIT開発を担う企業が多数あるということです。FPTは急成長を遂げていると聞いていますが、選ばれている理由はどこにあると考えていますか?

中井 FPTの最大の強みは、「スピード」と「グローバル」です。スピードに関しては、プロジェクトの実行やお客様への対応が高く評価されていますが、それを支えているのが意思決定の速さです。
失敗を恐れないチャレンジ精神がベースとなっているのはもちろんですが、目標を短期間で設定・共有するOKR(Objectives and Key Results=目標と主要な結果)を全社で導入するなど、即断即決できる仕組みを取り入れているのが大きいと思っています。
グローバル意識の高さは、20年以上前に海外展開を開始した際、創業者のビン会長が打ち出した「現地の言葉で話し、IT開発を支援する」という基本方針がベースです。現在、日本法人には3000人以上のベトナム人がいますが、彼らのほとんどが日本語だけでなく英語も話せます。
――言葉の壁なしで外国人材とプロジェクトに取り組めるということは、FPTのIT開発支援を受けると「知の探索」がしやすくなると言えますか?
入山 まさにそうですね。特にベトナムは、現在の国家体制になってからまだ歴史が浅いので、国として経路依存性がないんです。その意味で、日本とは遠い存在なので、お互いに「知の探索」ができます。
僕は日越外交関係樹立50周年の記念式典で基調講演をしたのですが、そのときに「日本とベトナムはベストパートナー」と申し上げました。日本はビジネスを磨き上げるノウハウや、深いドメイン知識を持っていますが、今は若い活力に欠けています。ベトナムは優秀な若い人材が多くて勢いがありますが、まだ成熟していない部分もあります。だから、組めば大きなシナジーが期待できるという話をしました。
閉塞感を感じている日本企業が、意欲あふれる人材を抱えたベトナムの会社と組むのは非常にいいことだと思います。
「FPTの情熱に後押し」なぜ好影響をもたらすのか
――実際、FPTとの共創に対して、顧客企業からはどのような反応があるのでしょうか。
中井 「FPTのメンバーに強い刺激を受けている」という声は多くのお客様からいただきます。ある大手企業は、業界でもいち早くアジャイル開発に踏み切ったことで知られていますが、「FPTの情熱に後押しされて決断できた」とおっしゃっています。
「FPTは品質を高めるための意見を積極的に出してくれるし、困難な要件でも諦めずに取り組んでくれる」といった声や、「FPTの文化があったらもっと成長できる」と言われることもあります。
入山 共創によって、企業文化が部分的にでも移植され、組織が活性化されるというのはよく聞く話です。ベンチャーならではのスピード感と、積極的にリスクを取りに行く姿勢が好影響を及ぼすのでしょうから、FPTとの共創はめちゃくちゃ期待できますよね。
中井 ベンチャー精神というところでは、目標の高さにもよく驚かれます。実はFPTでは、計画段階で売上高を前年比30%以上拡大させることが常に求められます。私が統括しているJV(ジョイントベンチャー)でも同様なので、JVパートナーの企業からは難色を示されることもあります。しかし、実際に動かすと達成できてしまうので、驚かれるのです。

入山 目線の高さは本当に大事です。最初から目線を下げてしまったら、成長するはずがありませんから。これは、僕が言い続けている「センスメイキング」の話に通じます。
センスメイキングとは、「腹落ち」です。人は腹落ちして初めて本気で行動しますので、組織を動かす最大の原動力となります。目線を高くして組織全体をその気にさせることで、不可能と思えた目標が達成できる。今の日本企業に最も求められていることです。
――社員の目線を高く保ち続けるために、FPTはどのような取り組みをしていますか。
中井 階層を超えたフラットなコミュニケーションが可能な組織風土の醸成を行っています。さまざまな取り組みをしていますが、特に力を入れているのが「Manager Escape」と呼んでいる2泊3日の合宿です。
年1回、マネージャー以上が参加し、部門横断のチームに分かれて、持続的にビジネスを成長させるためのディスカッションを行います。最終的にはチームごとに発表し、順位づけもしますので全員真剣に取り組みます。最後は各チームで芸を発表するので、本当に仲良くなります。
入山 すばらしいですね。アジェンダに沿って進める会議ではできない「会社はどうあるべきか」「成長に何が足りないのか」といった本質的な議論をすることが大切です。日本企業は、そういった本質的な“そもそも論”をあまりしませんが、組織全体で「腹落ち」をするには重要です。
AI時代に生きる力を学ぶ、独自の教育システム
入山 そうした組織風土に加えて、FPTは教育インフラも構築しています。FPT大学には僕も訪れて話を聞きましたが、国と経済の現状を考えてカリキュラムを組んでいますよね。
中井 はい。FPT大学は年間1万人規模のIT人材を輩出しており、特にIT技術に関しては市場のニーズを積極的にカリキュラムへ取り入れています。AIはもちろん、最近では半導体やオートモーティブなどの学科も加えています。
入山 実践的な学びだけでなく、僕がFPT大学で感動したのは、音楽と体育を4年間の必修科目としていることです。これからどんなにAIが進化しても、AIが体を動かすことはできません。音楽を聴いたり、演奏したりといった喜びも人間にしか味わえないので、技術力や経済力を高めるだけでなく、国を本当に豊かにしようと考えているんだと感じました。
そうした取り組みを日本企業の経営者は学ぶべきですし、FPTの支援を受けることで、そのカルチャーに触れることは組織にとって大切だと思います。
「変化を受け入れ、共に成長する力」が組織を動かす

――FPTの今後の展望をお聞かせください。顧客企業にどのような価値を提供していきたいとお考えですか。
中井 AIの進化もあり、日本企業の多くがIT開発の内製化を目指していますが実際には、IT人材の採用競争は激しく、技術の高度化・多様化、さらにはAIの急速な進展もあり、必要なスキルをすべて自社で抱え続けるのは現実的ではありません。
そこで現在進めているのが、「AIラボ開発」の提供です。お客様にとっては、「準正社員」として一定数のAIスキルを保有するエンジニアを確保してIT開発を共創していく形なので、開発の知見を蓄積しながら内製化の土台が構築できるうえ、需要の変動やビジネスの状況によって柔軟に体制を変更できます。
入山 面白いですね。日本企業は、IT開発を外部に丸投げすることが多かったので、実装に時間がかかるうえ知見が蓄積しないのが課題でした。
だから内製化を考えているわけですが、ITベンダーにとっては収益が下がるわけです。でも、FPTは内製化を支援していくというスタンスなのですね。
中井 私たちが考える内製化とは、「すべての仕組みを内製すること」ではなく、何をつくるか、どう変えるかという意思決定とコントロールを自社で持つことです。
その実現手段として提供しているのが「AIラボ開発」ですが、今後描くのは、このラボ開発チームと、日本側でお客様と接点を持つ、業務知識とAIの知見を併せ持ったエンジニア人材が、お客様の現場に深く入り込み、課題設定や仮説検証の段階から伴走する形です。
FPTは、エンジニアのみならず、業界や業務に特化したFPT独自のAIソリューションとプラットフォーム(FleziPT※)や他社製のAIソリューションを提供することで、どの業務にどう生かせば価値につながるのか、意思決定や業務変革の文脈で共に考え、実装までやりきることを目指していきます。
※FleziPT:FPTが提供するAIプラットフォームとして、ソフトウェア開発のあらゆる工程にAIエージェントを組み込むことができ、生産性と品質を大幅に向上できるプラットフォーム
そして、FPTが見据えているのは、内製化支援や技術力の提供の先にある本質的な価値の創出です。私たちは、お客様に深く寄り添い、共に悩み、共に挑戦し、共に成長する存在でありたいと考えています。課題の本質を見極め、最適な解決策を共に探し抜くという姿勢こそが当社のDNAです。
私たちが提供する挑戦する心と粘り強さが、やがてお客様のメンバーにも広がり、「変化を受け入れ、共に成長する力」となって組織を動かしていく。それこそが、私たちがご提供できる最大の価値だと考えています。