地球低軌道で交通事故が起きる? 科学者たちが懸念する「人工衛星が多過ぎ」問題
SpaceXは、この衝突事故が発生した高度700km前後の軌道に約100万基もの衛星群を投入しようとしているわけだが、この軌道にはすでに「ケスラーシンドローム」の兆候がみられると、ブリティッシュコロンビア大学のアーロン・ボーリー物理学・天文学教授は述べている。
ケスラーシンドロームとは、78年に当時NASAの科学者だったドナルド・ケスラーが提唱した概念で、軌道上のある空間を漂うスペースデブリ(宇宙ゴミ)や人工衛星のひとつが、別のスペースデブリなどに衝突して新たなデブリを散乱させ、連鎖的に衝突を繰り返してしまう状況を指す言葉だ。
ボーリー教授いわく、高度700kmの近辺にはすでに十分な量のスペースデブリが存在しており、ひとたびそれらの衝突が起これば、連鎖的に衝突が発生し、影響が拡大する可能性があるとのことだ。
それよりも低い軌道でも、人工衛星の衝突は起きる可能性がある。今年の初めには、高度550kmを周回するStarlink衛星のうち1基に、中国の人工衛星と衝突する可能性が浮上した。これを受け、SpaceXは軌道上の数千基のStarlink衛星の高度を下げて回避する対応を実施した。SpaceXは25年の上半期だけで、合計14万回以上もスペースデブリを避けるための軌道修正を実施している。
もし、大規模なケスラーシンドロームが現実に起これば、軌道上に無数にスペースデブリが散乱することになるだろう。そうなれば、軌道を漂うデブリは世界の通信網や気候監視ミッションなどに支障をきたすことも考えられる。そして、それらのデブリを除去するには、10年以上もの時間がかかる可能性もあるとポーリー教授は述べている。
スペースデブリ除去などの軌道上サービス提供を目指している日本のベンチャー企業アストロスケールホールディングスの創業CEO、岡田光信氏は、24年8月に行った業績報告の際に、Starlink衛星がスペースデブリなどとの衝突を回避するため、23年下半期には約11分に1回のペースで軌道変更動作をしていたが、それが24年上半期には約5分に1回にまで増加していることを例に挙げ、同社の事業の重要性を強調した。
光害の問題
天文学者らは、たとえケスラーシンドロームが起こらなくても、宇宙データセンターのために数万基の人工衛星が軌道上に溢れかえるようになれば、地上からの天文観測が困難になる可能性を懸念している。
そのため、すでに軌道上に1万基のStarlink衛星を打ち上げているSpaceXや、その他の衛星コンステレーション企業らに働きかけ、また協力して、衛星の機体に光反射率の低い素材を使用したり、太陽電池パネルなどの反射光が地球に向かないよう調整したりすることで、地上から見たときの衛星の明るさを低減させ、一定の成果を上げてきた。
ところが、SpaceXが軌道上AIデータセンターとして打ち上げようとしている100万基もの衛星やその他の衛星コンステレーション計画は、これまでの地道な努力を水泡に帰す可能性がある。
宇宙持続可能性の専門家であるジョナサン・マクドウェル氏によると、軌道上AIデータセンター用衛星は単体で最大長が約100mに達することが予想されるうえ、常に太陽電池に光が当たる高度500~2000kmの軌道を周回するという。そうなると、天文観測が行われる真夜中でも、地上からはそれらが常に明るく輝いて見える可能性が高い。天文学者でDark Sky Consultingの代表を務めるジョン・バレンタイン氏は軌道上AIデータセンターが「おそらく地球の大部分で、年間を通して一晩中見える」可能性があると述べている。



















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