「ゴキブリ騒動」は次の景気後退の予行演習か、自動車ローン会社の信用事例は良い警鐘に

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ヒューストンのトライカラー販売店Photographer: Mark Felix/Bloomberg

自動車ローン会社トライカラー・ホールディングスのビジネスモデルは元々、安定したものとは言い難かった。信用度の低い顧客を対象とするサブプライム自動車ローンを専門とし、ウェブサイトには今も「信用履歴が悪くても心配いりません」との文言が残る。顧客層には不法移民も含まれていた。

問題はトライカラーだけではない

こうした危うい事業構造にもかかわらず、9月に破産申請したトライカラーには、JPモルガン・チェースやバークレイズといった大手金融機関が巨額の融資を行っていた。

問題はトライカラーだけではなかった。すぐ後に自動車部品メーカーのファースト・ブランズ・グループが、貸借対照表に反映されない短期融資への依存を巡る懸念から破産を申請。さらに地方銀行のザイオンズ・バンコープとウエスタン・アライアンス・バンコープが借り手による不正疑惑を公表し、銀行株が急落した。同じ日にマイアミの投資会社777パートナーズの共同創業者が、同じ担保を複数の貸し手に提供するなどの詐欺と共謀の罪で起訴された。

JPモルガンのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)は10月半ばの決算説明会で、同社がトライカラー関連で1億7000万ドル(約260億円)の損失を計上したことを明らかにし、「ゴキブリは1匹いたら、恐らく他にもいる」と語った。

この比喩は一部では誇張と受け止められた。特に、透明性や監督の欠如を理由に批判を受けてきたプライベートクレジット業界の関係者は防御的な姿勢を示した。地方銀行も、最近の信用損失はシステム全体の不安定化を示すものではなく、2023年に中小銀行を揺るがせた危機の再来を意味するものではないと主張した。一方で、発言はウォール街の警戒心をかき立て、ゴキブリ探しが始まった。

ダイモン氏の発言で浮き彫りになったのは、信用市場の脆弱(ぜいじゃく)性に対する市場の神経質な反応だ。低金利による好調が続いた後で、調整局面が近づいているとの見方もある。高利回り社債のデフォルト率は歴史的平均と同程度にとどまっているが、特に実態が把握しにくいプライベートクレジット市場については懸念が強い。

ニューヨーク大学スターン経営大学院の名誉教授エドワード・アルトマン氏は、企業が利払いを先送りし元本に組み入れる『ペイメント・イン・カインド(PIK)』が増えていることを指摘し、「企業の資金繰りは逼迫(ひっぱく)している」と警鐘を鳴らす。デューク大学ロースクールのエリザベス・ド・フォンテネー教授も、同じローンを金融機関によって大きく異なる評価額で計上する事例があるとし、「これらが本当に公正価値で報告されているのかが問題だ」と語る。

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