<若者よ目を覚ませ!>各党の手取り増加策は的外れ。若年低所得者の手取りは「社会保険料の税方式化」と「所得補給制度」でこそ本当に増える

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なお「所得補給制度」は、日本では通常、「給付付き税額控除」制度と呼ばれている。しかし、creditの訳語である「控除」には、原語が持つ「褒美」や「評価」の含意がないため、この訳語は大抵の人にとって意味不明となっており、制度導入の大きな障害となっている。

「所得補給制度」は、日本以外の先進国のほとんどで行われているが、特に英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドでは、付加価値税の逆進性対策としてこれを導入したことに注目すべきだ。日本でも、この制度の導入によってワーキングプアの現在の消費税負担を十分に相殺できる。

なぜ各党の「手取り増加」策は的外れなのか?

現在の日本は、いくつもの理由で貧困対策を必要としている。第1に、冒頭で述べたように、低所得者の可処分所得を上げることは、歳入中立的な増税で賄っても賃上げをもたらし、結果的に、中高所得層も大きな利益を得ることができる。

第2に、日本の出生率の低下の主因である貧困による結婚件数の減少を防ぐ。

第3に、近年日本では、「低所得者の救済」を根拠として、供給不足によって価格高騰した財の全購入者に政府が補助金を出して、不足している財の無駄使いを奨励してきたが、低所得者の可処分所得が十分に高ければ、このような非効率な市場介入を最小限にできる。

第4に、近視眼的な大衆迎合政権を生む温床になる所得格差拡大を抑える。 

これらの観点からすると、各党が手取りを引き上げるためとして主張してきた所得税の課税最低限の引き上げは、的外れな政策である。そもそも課税最低限以下の人達は、課税最低限の引き上げの恩恵を受けることができず、高い社会保険料を支払い続けなければならない。

また消費税率の引き下げは、社会保険料の税方式化や所得補給制度に比べて、歳入損失当たりの低所得者の手取り増大効果が桁違いに小さいため、貧困対策としては優先順位が低い。

アメリカのトランプ大統領が金持ち優遇減税の財源獲得のために必要としている関税率の引き上げを、アメリカの製造業労働者は、輸入で痛めつけられた自分たちへの救済措置だと考えて支持してしまった。

同様に、日本の低所得の若者達は、諸政党が提案してきた各種の減税策を、自分達の手取りを増やすための政策だと考えて支持してしまったのではないか。これらの減税策は、政党の支持母体である労働組合員の手取りを大きく増やすが、低所得者の手取りはほとんど増やさない。トランプ支持者を笑う前に、日本の若者は目を覚ますべきである。

八田 達夫 アジア成長研究所(AGI)理事長

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はった たつお / Tatsuo Hatta

アジア成長研究所理事長。日本学士院会員。大阪大学名誉教授。政策研究大学院大学名誉教授。東京財団政策研究所名誉研究員。ジョンズ・ホプキンス大学教授、大阪大学教授、東京大学教授、政策研究大学院大学学長などを経て、現職。Ph.D.(経済学、ジョンズ・ホプキンス大学)。専門は公共経済学。

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