岐阜県内の学校をつなぐ大規模ネットワークの更新

岐阜県では、県内の国道の地下に光ファイバー網を敷設し、「岐阜情報スーパーハイウェイ」として県内の行政や自治体向けの情報基盤を構築、2002年から運用している。この基盤の上で、岐阜県教育委員会が主体となって構築した教育機関向け情報ネットワークが「学校間総合ネット」だ。

県内の小中学校、高等学校、大学などを大容量の光回線で接続。学校間総合ネット上では、教職員のメールやグループウェア、教育用コンテンツ、ウイルス・セキュリティ対策など、幅広いサービスが提供されている。

岐阜県教育委員会 教育財務課 情報基盤係 岩口一平氏
岐阜県教育委員会
教育財務課 課長補佐
兼 情報基盤係長
岩口 一平

「教職員間のメールやファイル共有をはじめ、教員が職員室にいるときは、ほとんど自席の端末からネットワークにつないで業務を進めています。また、学校同士や学校と教育事務所、教育委員会との連絡も、基本的に学校間総合ネットで行っていて、学校事務には不可欠のインフラです」と、岐阜県教育委員会 教育財務課課長補佐 兼 情報基盤係長の岩口一平氏は説明する。

学校間総合ネットを支えるネットワーク機器は、7年に1度の頻度で更新時期を迎える。教育委員会では過去3回の更新の都度、ネットワーク環境をアップグレードしてきた。

2016年(第3期)の更新では、学校間総合ネットに接続する県立の高等学校や特別支援学校など87拠点を対象に、ネットワーク機器のリプレースを実施した。ここでいうネットワーク機器とは、岐阜情報スーパーハイウェイの光ファイバー網に接続する各拠点で使用するネットワークスイッチ、無線LANアクセスポイントなどの機器のことだ。

このリプレースによって、校内のネットワーク環境を大幅に改善。Wi-Fi環境の整備をはじめ、管理コンソールから各学校のネットワーク機器の状態が可視化できる管理ソフトウェアを導入し、運用管理の負担を大幅に減らすことに成功したという。

「授業がスムーズに進む」ためのネットワークが不可欠に

だが、第3期の更新を完了して間もなく、学校を取り巻くネットワーク環境は大きな変化に直面する。それが、GIGAスクール構想が掲げる「1人1台端末」の導入だ。小中学校だけでなく高等学校でも生徒1人1台分のタブレット配備が進んだことで、端末の数が一気に増加。デジタル教材を使った授業も始まるようになった。

岐阜県教育委員会 教育財務課 情報基盤係 課長補佐 棚橋拓水氏
岐阜県教育委員会
教育財務課 情報基盤係 課長補佐
棚橋 拓水

「1人1台端末の普及によって、ネットワークにつながる端末の数は、それまでの約1万7000台から約5万7000台に増えました。4万台の増加となるとどうしても通信量が増えますし、管理もものすごく煩雑になります。セキュリティの強化も欠かせません」

そう話すのは、情報基盤係課長補佐の棚橋拓水氏。生徒向けに導入されたタブレットは教室内のWi-Fiアクセスポイントに接続して利用していた。しかし、Wi-Fiが整備されていない教室もコロナ禍で利用需要が高まったことで、各学校で暫定的に設置したが、Wi-Fiの電波が届きにくいエリアも一部あり、アクセスポイントの増強も必要だった。

「生徒全員が端末を使うため、1人でも端末がネットワークにつながらなければ、授業がスムーズに進みません。教室のどこにいてもストレスなくつながることが非常に重要になりました」(棚橋氏)

また、授業で端末を活用するニーズも増えたが、普通教室以外の実験室や実習室といった特別教室はアクセスポイントを設置していなかったため、端末を使った授業が実施できなかった。さらに、学校の体育館には情報コンセントはあったが、建屋の間を無線通信で中継していたため、通信が不安定で授業に使うことが難しく、こちらも対策が必要だった。

そこで、2016年の更新から7年が経った23年(第4期)のリプレースでは、無線端末や通信量増加を想定した無線アクセスポイントの負荷・性能評価の結果も踏まえ、これらの課題を解決することを目指し入札を実施。その結果、第3期の更新も手がけたアライドテレシスのソリューションを導入した。

2023年(第4期)ネットワーク機器更新での変更点

86拠点のネットワーク機器入れ替えを短期間で実現

ネットワーク機器の更新工事は、2023年8月から12月にかけて86拠点を対象に実施した。アクセスポイントの増設は体育館を中心に実施したが、農業高校では農場ハウス・牛舎・校外の山林農園など屋外でも情報システムを利用する授業が多くなり、無線LANのエリア拡大要望が強かった。そのため、各学校に対して希望するエリアをヒアリング・事前調査を行い、屋外利用でのセキュリティ確保も念頭に対応した。

5カ月という短期間で、全86校との間でスケジュールを調整し、無事に工事を終わらせたことを、教育委員会も高く評価している。「前期と同じメーカーのアライドテレシスさんにお願いできたことで、引き継ぎの面でもスムーズに行えたことはありがたかったところです」と岩口氏。

棚橋氏も、「工事は基本的に、極力授業に影響を与えないようにするため、コアスイッチの切り替えは平日の休み時間に実施しなければいけません。また、試験や行事があると工事ができないなど、学校ごとにスケジュールを確認して進める必要がありました。こうした細かい調整をはじめ、事前の下見もして、工事を完了していただいたアライドテレシスさんに対して、各学校の担当者の評価も非常に高かったですね」と語る。

アライドテレシス 中部営業本部 東海支社営業3課 課長 松田佳宜氏
アライドテレシス
中部営業本部 東海支社営業3課 課長
松田 佳宜

導入を担当したアライドテレシス中部営業本部 東海支社営業3課 課長の松田佳宜氏は、「学校など教育機関のネットワークは、それをお使いになるユーザーが先生や生徒さんですので、オフィスの場合とは課題も異なります。できる限り、実際の環境でしっかりつながることを意識しながら対応していきました。

第3期から運用保守を担ってきた経験や、毎月の定例会で教育委員会の皆様と密にお話しする機会があったことも、今回のサポートにつながったのではないかと考えています」と力を込める。

今後は生徒の「BYOD対応」も視野に

新たな機器による第4期の学校間総合ネットのネットワーク環境は、2024年1月から無事に稼働している。その手応えについて、23年まで県内の学校で教員として働き、現在は学校間総合ネットの運用管理を担当する、情報基盤係課長補佐の高坂武司氏は次のように話す。

岐阜県教育委員会 教育財務課 情報基盤係 課長補佐 高坂武司氏
岐阜県教育委員会
教育財務課 情報基盤係 課長補佐
高坂 武司

「ネットワークの管理というと、画面にコマンドを打ってその結果を確認するようなイメージを持っていましたが、アライドテレシスさんの管理機能は画面表示がわかりやすく、問い合わせに対しても管理画面と突き合わせて問題の特定がしやすいと思っています」

もう1つ、第4期で実施したのが、学校間の光ファイバー網が寸断した際のバックアップ回線の確保だ。前述のように、ネットワークはもはや学校の運営にとって不可欠なインフラとなっている。特に災害時などで、山間部にある学校をつなぐ光ファイバーが切断した場合、情報が届かず孤立したことがある。そのため、LTEのネットワークを使ったバックアップ機器を準備することにした。

実はネットワークの更新工事の直後、ある学校で工事とは無関係の回線引き込み部分に起因した通信障害が生じた。その際に、このバックアップ機器を稼働させたが、そのときはうまくいかなかった。しかしその後、アライドテレシス側ですぐに原因を特定、対策を実施して無事にバックアップ環境に切り替えることができたという。「この出来事があったことで作業手順も含め、いざというときのための予行演習になりよかったと思います」(高坂氏)。

教育委員会では現在、端末の更新を検討中だが、現行と同じように端末費用を県が支出できない場合、各家庭のものを持ち込むBYOD(Bring Your Own Device)方式に移行することも想定している。その際の利便性とセキュリティの向上のため、現在は利用ごとに教員が申請している接続IDの発行を、今後は生徒も自身で行えるように、岐阜県教育委員会向け申請・認証システムにて生徒自身によるBYOD用証明書の申請・承認から配布まで簡単に行えるための機能を追加した。

ただ、いくら新しい機能を取り入れても、ユーザーである生徒や教職員が理解して利用できないものであれば意味がない。「いかに教職員にICTやセキュリティへの意識や情報リテラシーを高めていただけるかが重要だと考えています」と岩口氏は指摘する。

そうした背景もあり、学校間総合ネット上には、ICTにまつわる疑問や悩みについて教育委員会と学校の教職員とが直接チャットでやり取りできるコミュニティがあるという。

「『情報管理コミュニティ』と呼んでいますが、県内の300名以上の教職員が、われわれと共に困り事の相談などをチャットしています。当事者間のやり取りだけで問題が解決することも増えていますね。こういう話を他県の教育委員会の方にすると驚かれることが多いのですが、これからも、教員を含めたナレッジの共有を進め、情報リテラシーを高められればと思っています」(岩口氏)

岐阜県内の学校内、学校間に張り巡らされたネットワークは、情報だけでなく教育関係者の働きやすさ、そしてICTを活用した生徒の学びを支える、文字どおりの「インフラ」となっている。

「学校間総合ネット」第4期の更新に当たった岐阜県教育委員会とアライドテレシスのメンバー
「学校間総合ネット」第4期の更新に当たった岐阜県教育委員会とアライドテレシスのメンバー
(写真左から) アライドテレシス 中部営業本部東海支社支社長の森澤夏峰氏、同営業3課課長の松田佳宜氏、岐阜県教育委員会 教育財務課情報基盤係 課長補佐の高坂武司氏、同課長補佐の棚橋拓水氏、同課長補佐兼情報基盤係長の岩口一平氏、アライドテレシス 執行役員の小泉卓也氏、ソリューションエンジニアリング本部中部プロジェクトマネージメント部部長の豊田陽一氏、同部の伊藤貴亮氏

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