FAX原則廃止は容易ではない?校務DXの現在地
2023年12月、政府の「デジタル行財政改革会議」の中間報告がまとまった。この中では、学校現場のアナログ業務を抜本的に見直し、デジタル技術の活用により校務DXを実現することにも触れ、具体的な目標も明記された。とくにメディアでも話題になったのは、25年度までに学校現場でFAXでのやり取りや押印を原則廃止する方針が示されたことだ。
しかし、FAXの廃止は容易ではない。23年12月に文部科学省が公表した学校事務のデジタル化に関する調査結果によると、全国の教育現場の95.9%が業務にFAXを使用していることが明らかになった。なぜ、FAXの使用率がこれほど高いのか。学校現場や教育委員会の実情に詳しい、エプソン販売の教育機関向け企画部門課長、森田眞史氏は次のように考察する。
「学校現場の業務は、慣習が根強く残っているケースが散見され、一足飛びには変えられない状況だと思います。教員間の連絡はメールやチャットを活用している場面もありますが、教材や事務用品、給食材料など、民間業者とのやり取りはFAXを利用せざるをえない状況です。また、教育委員会との連絡などの一部の業務でも、FAXの利用が主流です。現在多くの民間企業では、見積もりや請求書をメールやクラウドサービスで送付する方法が浸透していますが、学校現場ではFAXで送付する方法が当たり前とされているのです」
デジタル化が進めば、紙でのやり取りや管理の手間を大幅に省けることは間違いない。しかし諸般の事情を踏まえると、学校現場は「デジタル化を意識はしているが、一気には変えられない」というジレンマを抱えていることが予想される。森田氏は「社会全体がデジタル化に進んでいくに従って、将来的には学校現場もFAXを完全に廃止していくのでは」と、今が過渡期であることを指摘する。
「Epson Connect」は紙でもデータでも資料送付が可能
FAX原則廃止前夜であり、社会のデジタル化も着々と進行中の今。教育委員会や学校現場はどのようにすれば連絡の方法を変えられるだろうか。その選択肢の1つとして有効なのが、エプソンのプリンター利用者向けに無償で提供されている「Epson Connect」だ。とくに学校現場で役立つ2つの機能について、森田氏は次のように説明する。
「1つ目は、自分のPCからエプソンプリンターに付与されたメールアドレス宛てに、資料を添付したメールを送信すると、受信側のプリンターからメールの内容と資料が印刷できる『メールプリント機能』です。これを活用すれば、教育委員会から複数の学校へ紙の資料を送りたいとき、教育委員会のPCから各学校のプリンターにメールを送るだけで電話・FAX回線を使わずに遠隔印刷ができます。
2つ目は紙の資料をスキャンして、そのデータを受信側で印刷、あるいはメールでの受信ができる『スキャン to メール機能』です。これまで学校間などFAXでやり取りしていたものをエプソンプリンターでスキャンし、PCを介さずに本体のパネル操作だけで受信側のプリンターのメールアドレスを指定してメールを送信すれば、受信側のプリンターに印刷指示をすることができます。また、受信側がデータで受け取りたい場合は、相手のPCのメールアドレスへ送信するだけでデータとして受け取ることもできます※2」
「Epson Connect」はインターネットを使っているため、紙だけでなくデータでのやり取りも選べ、ペーパーレスに貢献できる。また、一度送信側のプリンターに、ほかのプリンターに付与されたメールアドレスを登録しておけば、次回からは入力不要で選択するだけで送付先を指定できるのも便利だ。
※2 受信側は事前に「Epson Connect」にログインし、送信側のメールアドレスを受信許可リストに登録しておくことが必要
緊急連絡時に役立つ「Epson Connect」の実力
すでに「Epson Connect」を活用し、学校現場の課題を解決している教育委員会もある。彦根市教育委員会では、教育委員会および市内の小・中学校24校の校長室と事務室のエプソンプリンターで「Epson Connect」を使用している。非常時に「メールプリント機能」を活用し、彦根市教育委員会から送信したメールが、各学校のエプソンプリンターから直接印刷できるよう仕組み化している。
これが功を奏したのは、Jアラートの訓練が急きょ中止になったときのことだ。11時に訓練開始の予定だったが、わずか20分前に中止が決定し、彦根市教育委員会に一報が入った。訓練開始までの20分間で、各学校に中止の連絡をしなければならない事態になった。
このような場合、従来は1校ずつ電話やFAXで連絡するのが通例だった。しかし、20分間では到底間に合わないと判断し、「Epson Connect」の活用を決定。メールアドレスが事前に登録されていたので、10時52分にメールを一斉送信し、各学校のエプソンプリンターから紙が印刷される形で情報を伝えることができたという。
「緊急を要する連絡の場合、メールだけでは見てもらえない可能性があります。『メールプリント機能』を活用すれば、プリンターとPCのメールアドレスに送ることができるので、連絡を受ける側は印刷物とメールの両方を受け取れます。現状、学校現場はアナログからデジタルへの過渡期にありますが、完全デジタル化の時代はさほど遠くないと思います。ただし急激な変化というのは学校現場の現状を考えると難しいのではないでしょうか。デジタル化への段階的な施策の1つとして『Epson Connect』が役に立つと思います」(森田氏)
学校現場のデジタル化やDX化が進んでいるが、FAXから脱却するにはもう一歩踏み込んだ改革が必要だ。「Epson Connect」はそのためのツールとして有効活用できるのではないだろうか。最後に森田氏は、こう締めくくった。
「学校現場におけるいちばんの目標は、教育の質を向上させることではないでしょうか。そのためには、教職員の方の働き方改革も重要であり、FAXの廃止は1つの手段だと思います。デジタル化への第一歩として『Epson Connect』で効率化を図ることにより、先生たちが子どもたちと向き合う時間を少しでも増やせることを願っています」
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