学校現場に広がる生徒の「多様化」と「多層化」

Classiのメイン画面。たくさんの機能が一覧できるようになっている

コロナ禍を機に一気に広まった、学校における1人1台端末の普及。意欲的な学校や地域ではコロナ禍前から外部連携などを通じてその可能性を探っていた。これまで高等学校を中心に校務支援や、コミュニケーションツールとして累計210万人もの生徒が利用してきた教育プラットフォーム「Classi」も、意欲的な教員や学校との共創によって育まれたものだ。Classiの開発を統括するClassi VPoP(プロダクト責任者)兼プロダクト本部副本部長の宮尾晃一氏は学校とICTの歩みについてこう語る。

Classi
VPoP(プロダクト責任者)兼プロダクト本部 副本部長
宮尾晃一氏

「Classiが誕生した2014年は、教育のあり方が変化し始め、ICTを使いましょうという話が国からもあり、学校や先生がICTで何ができるかを模索していた時期でした。当社では、初めから現場の先生と協力して、『コミュニケーション』『生徒に関する情報の蓄積』『学習での活用』など、ICTを活用できる場面を想定し開発を進めてきました」

こうした中で「先生と生徒」「先生と保護者」のコミュニケーションプラットフォームや、生徒の成績や進路などの情報を蓄積できる「生徒カルテ」「学習機能」などがClassiに搭載されてきた。

学習におけるICT活用が求められる背景には、現在の学校が抱えるさまざまな課題があるという。

「近年、学校の統廃合、入試環境の変化、進路の多様化などの環境の変化で、1つの学校にいろいろな生徒さんが集まるようになっています。また生徒さんの学習への向き合い方や取り組みにもばらつきが生まれ、学力が多層化している。加えて、進路や入試の方法も多様化しており、生徒一人ひとりに合った学びが求められています。一方で、先生の仕事は多忙を極めており、なかなか生徒個別の対応には限界があるという現実もあります」(宮尾氏)

こうした背景から、ICT活用による「個別最適な学び」の支援が期待されているのだ。宮尾氏は続ける。

「そんな声を受けて、Classiでは『ICTの力を活用することで、生徒の意欲を引き出し、自らが学習サイクルを回す学び方や、一人ひとりに合った学びを支援できないか?』という挑戦を学校と一緒に進めています」

ベネッセテストの結果を自主学習に反映

ではICTが支援する個別最適な学びとは、具体的にどのようなものなのだろうか。Classiにおける学習機能の開発を担当するClassiプロダクト本部学習PMF部部長の安部亨氏はこう説明する。

Classi
プロダクト本部 学習PMF部 部長
安部 亨氏

「これまでの個別最適な学びは、苦手なことを克服するために次に解くべき問題をおすすめすることとされてきました。しかし今、求められている個別最適な学びとは、生徒さん一人ひとりの学力や、意欲、目標に合わせて生徒の可能性を引き出す個別最適な学び方です。これまでも、『どこから手をつけたらいいかわからない』という学習者の悩みに対し、弱点部分や、どこから学習すれば効率的なのかを明らかにしてくれるサービスはありました。しかし、苦手な箇所を指摘され、苦手分野を克服することのみを重ねる学習は生徒さんにとってもなかなか続けるのが難しい。 そこでClassiでは、苦手分野を克服することだけではなく、『生徒さんが自ら設定した目標』と一人ひとりが受験したベネッセコーポレーションのアセスメント結果として算出される『学習到達ゾーン(GTZ)』に応じて、個別最適化された問題が提案される仕組みを取り入れました。例えるならば、生徒さんが一歩踏み出したいと思ったときに自分の今の現在地がわかり、次に向かう方向のヒントを示せるような存在を目指しています」

生徒自身で設定する目標GTZ

この仕組みを実現可能にしたのが「進研模試/ベネッセ総合学力テスト」(以下、ベネッセテスト※)、「レコメンドエンジン」「学習サイクル」の3つだ。実は、以前からClassiには、学校や教員を通じて「進研模試の結果を、生徒の学びに生かしたい」という声が寄せられていたという。実際、Classiはベネッセホールディングスとソフトバンクの共同出資によって設立された会社のため、受検者数約45万人を誇る国内最大規模のベネッセテストの結果を生徒の自主学習に生かす仕組みが可能でもあった。

「これまでベネッセテストの結果で表示されるのは各教科の点数と志望校の合格可能性、どの分野ができていないかといった内容でした。そのため、模試の結果から生徒さんが学習しやすくなるように単元ごとのGTZを細かく把握するには、成績結果の処理方法から変える必要がありました」(安部氏)

「生徒の学力を伸ばす問題」をAIが出題

課題はほかにもあった。生徒の模試の結果は網羅的に把握できているが、更新頻度が低いため、リアルタイムに生徒の習得度を把握し、生徒が今最も学力が伸びる問題を選ぶことができる仕組みを、具体的にどうClassiに組み込むかという点だ。安部氏が説明してくれた。

「Classiのデータサイエンスチームと電気通信大学大学院の植野真臣教授、東京大学大学院の佐藤一誠教授がタッグを組み、レコメンドエンジンを開発しました。Classiの学習トレーニング機能には先生からの『課題配信』という機能があります。これは、生徒さんの履修進度に合わせ、『単元』『ベネッセテスト』の軸で、先生がテスト範囲を選んで課題を配信するとAIがおすすめ問題を選んでくれます」

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先生が課題配信をする画面

興味深いのは、AIが出したおすすめ問題を実際に選ぶのは生徒自身だということだ。例えば、「動詞の活用の問題の正解率は80%だったが、動詞の時制の問題は40%、自動詞と他動詞の問題は0%だった」という生徒がいたとする。すると、この生徒には正解率が0%だった自動詞と他動詞の問題だけでなく、40%正解した動詞の時制の問題や、80%正解した動詞の活用の問題も表示される。そのため、まずは得意な問題を解いて、学習する気持ちに弾みをつけてから苦手な問題にチャレンジすることもできるのだ。苦手の克服だけでは学習が続かないことを経験的に知っている現場の先生からは、生徒が自分で選べるスタイルが非常に評価されているという。

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生徒の自主学習画面

「解く問題は、簡単すぎても難しすぎても力がつきません。ですから、最もこだわったのは『どの難易度の問題を出せば、いちばん学力が向上するのか』の見極めです。AIがおすすめする問題を解けば解くほど学力が上がる問題になるようこだわりました。そうすることで、生徒さんは問題を解くほど効果を実感し、やる気につながり、自主学習のサイクルが回っていくというわけです」(安部氏)

なお、Classiには単元ごとの学習動画も1万500本用意されている。そのため、もしインプットが不足している単元があれば、まずは動画でしっかり理解してから問題を解くことで、よりスムーズな学習へとつなげることも可能だ。

生徒の理解度に応じて、多く用意されている学習動画(写真提供:Classi)

ICTだから気づける、生徒の努力や新たな一面

これまではClassiを先生の教具や、コミュニケーションツールとして使っていた学校も多い。しかし、学習トレーニング機能のリリースにより、学習支援目的での導入も増えていると、安部氏は話す。

「生徒さんからは、『おすすめされる問題を解いているうちに、気づいたらその単元ができるようになっていた』『これまでは問題集に自分を合わせなくてはいけなかったが、問題のほうから自分のところに来てくれるような感覚がある』という声を、たくさんもらっています。Classiは先生にとっては“アシスタントティーチャー”であり、生徒さんにとっては“伴走者”としての役割を果たしているようです。実際に使っていただいている学校の先生からは、『きっかけは教員がつくったものの、生徒の“学びの自走”が始まった』という声もいただいています」

また、Classiを使用する場所や時間も学校の中だけではなく、通学途中から帰宅後にまで広がっているそうだ。

「授業中にClassiを使うだけでなく、通学の電車やバスの中、自宅でおすすめ問題を解いている生徒さんも多いようです。こうした学びの履歴は先生も確認できますから、今まではなかなか気づきにくかった生徒さんの陰の頑張りや、口には出していない意欲を把握しやすくなったといえるでしょう。Classi導入を機に、『生徒の自走を促す指導ができるようになった』と言う先生もいらっしゃいます」(安部氏)

生徒の学びの自走を、より促すための仕掛けにもこだわりがある。学校からのリクエストの声を受けて、先生から生徒へのフィードバックを文章だけでなく、スタンプでも送れるようにしてあるのだ。宮尾氏はこう話す。

時間がない先生にとっても、スタンプでの返信は気軽で送りやすいという

「先生と生徒の間で、デジタル特有のコミュニケーションが生まれいます。スタンプは、生徒にわかりやすい形で思いが伝えやすいようですね。『怖いと思っていた先生がこんなスタンプを送ってくれた!』『普段あまり意見を口にしない生徒にこんな考えがあるのだと知れた』というような、先生にとっても生徒さんにとってもうれしい驚きや、新たな気づきがあるようです」

Classiを活用して生徒のやる気を刺激

学校現場の意見を聞きながら、機能を充実させてきたClassi。時にはサービスを提供する側が予想しなかった使い方が生まれることも多いという。

「Classiを使うと、どの生徒さんがいくつ問題を解いたか先生が把握できるようになるのですが、その機能を活用して、さらにモチベーションを上げる工夫をしている学校も多いですね。一例を挙げると、日本地図を用意して、生徒さんが解いた問題の数に応じて都道府県ごとに色を塗っていき、その仕上がりで進捗を可視化している学校もあります。こうした仕掛けづくりは先生たちが得意とするところですよね。私たちもそんな工夫をClassiにも応用できないか、先生方からアドバイスをいただきながら、検討しています」(安部氏)

多様化・多層化する学校現場において、生徒一人ひとりの現状を把握し、「学びに向かう一歩」を個別最適に後押しするClassi。多忙を極める教員の働き方改革にもつながると期待されている。

最後に、今後の展望を宮尾氏に語ってもらった。

「Classiは、ただ教育プラットフォームを提供して終わりというものではありません。その学校の体制に合わせて生徒の個別最適な学びを実現するためには、どう活用していけばいいのか、導入計画から、導入後も学校や先生とお話ししながらサポートしていくのも特徴です。Classi・ベネッセにはこれまでに蓄積した学校やICT活用の知見もあり、先生と共にサービスをつくることで、私たちだからこそできる学びの形をつくり、より多くの学校に広めていきたいですね」

現場の教員の声をすくい取り、今も進化し続けているClassi。個別最適化された学びに生徒自身が主体的に取り組む環境づくりが求められる今、学習ツールとしての存在感はさらに増していくことだろう。

※ 進研模試/ベネッセ総合学力テスト

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