日本のEV、風力が危ない! 中国依存をやめよ 脱炭素と脱中国、「グリーン経済安保」が必須

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風力発電機でも中国勢が伸びている。国際団体の世界風力会議の調査では、2022年に導入された風力発電のうち49%を中国が占める。発電機メーカーのシェア1位はデンマークのベスタス社だが、2位の金風科技(ゴールドウィンド)をはじめ、上位15社中10社を中国企業が占めた。

脱炭素と関わりの深いEVにおいても基幹部品の原材料は中国に頼る。EVのモーターに使われるレアアースの生産(精錬)は、世界シェアのうち中国が7割を占めている。中国はレアアースを用いた高性能磁石について原料採鉱から合金・磁石の製造まで自国で完結する体制を築きつつある。世界のEV市場で覇権を握ろうとしているのだ。

日本での調達を急げ

脱炭素で世界をリードするEU(欧州連合)は中国依存の危険性に気づき始めた。

北村滋(きたむら・しげる)/1956年生まれ。東大法卒、1980年に警察庁入庁。2006年に安倍首相秘書官。2011年に内閣情報官。2019年に国家安全保障局長。2020年米国政府から国防総省特別功労章を受章。現在は北村エコノミックセキュリティ代表(撮影:今井康一)

2023年3月に公表した「ネットゼロ産業法案」は、再エネ技術の製造に焦点を当て、域内調達を高めることを目的にしている。具体的には、2030年までに太陽光や風力、水素などネットゼロ技術の40%を域内で生産することを目指している。対象製品は、太陽光パネル、風力発電機、電池、ヒートポンプ、エレクトロライザー(余剰電力で水素を製造する装置)などだ。

さらに同法案では、脱炭素技術のサプライチェーンを可能な限りEU域内に形成することを目指している。EUはAI(人工知能)や半導体だけでなく環境技術でも競争力を高めようとしているのだ。

日本も資源調達の多角化や再エネの自主開発を進めている。コバルトやニッケルといった主要鉱物の産出国であるアフリカの資源国との関係強化に乗り出しているのはその一例だ。太陽光パネルでは薄型でエネルギー効率のよい「ペロブスカイト型」と呼ばれる国産技術に期待がかかる。原料の国産調達が容易であり、サプライチェーンの観点からも好適とされる。

2022年に成立した経済安全保障推進法では、サプライチェーン上の特定重要物質として蓄電池や重要鉱物資源が指定された。また今年成立したGX(グリーントランスフォーメーション)推進法によって国を挙げて脱炭素投資を進めることが決まった。

日本が脱炭素時代の新たな競争に生き残るためにはグリーン経済安保の観点が不可欠だ。日本が脱炭素を実現しようとする際、中国に首根っこを押さえられるような事態は絶対に避けねばならない。

北村 滋 前国家安全保障局長

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きたむら しげる / Shigeru Kitamura

1956年生まれ。東大法卒、1980年に警察庁入庁。2006年に安倍首相秘書官。2011年に内閣情報官。2019年に国家安全保障局長。2020年米国政府から国防総省特別功労章を受章。現在は北村エコノミックセキュリティ代表

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