コロナ禍でネット環境整備の必要性が浮き彫りに

東京都小金井市にある中央大学附属中学校・高等学校は、1909年設立。2023年5月現在の生徒数は中学校が518名、高等学校が1176名で、キャンパスの敷地面積は約4万7000平方メートル。講堂や約20万冊の蔵書が収められた図書館のほか、3棟の体育館に3面のグラウンドと運動施設も充実している。

中央大学附属中学校・高等学校
校長
石田雄一 氏

校長の石田雄一氏が「本校は建物や設備が高く評価されてきました」と話すのもうなずける環境だ。18年からSSH指定校に採択されているだけあり、本格的な設備が整った理科実験室は高校だけで6室もある。

「しかし、少し前までICT環境には課題がありました。インターネット回線が少々脆弱だったのです」

石田氏がそう話すように、同校のネットワーク回線速度は100Mbpsしかなかった。これは家庭用であれば、十分な速度であるかもしれない。ただ、学校用と考えると、この数値は少し心もとないものだ。文部科学省の「GIGAスクール構想の実現標準仕様書」によれば、学校用回線は「最大 1Gbps 以上のベストエフォート回線(ギャランティ回線)とすること」となっている。

中央大学附属中学校・高等学校
事務室 管財(施設修繕・情報環境整備)担当
江尻裕一 氏

しかし、同校は決してICT教育に消極的だったわけではない。同校のような私立や中高一貫校の中では珍しくシステムエンジニアが常駐しているほか、早くから各教室に回線が引かれていたのがその証左だ。むしろ、早期から熱心に取り組んできたからこそ、厳しい環境に置かれてしまったともいえるのだ。事務室で管財(施設修繕・情報環境整備)を担当する江尻裕一氏は次のように話す。

「各教室に有線LAN環境はありましたが、すべて2000年代に整備されていたため老朽化は否めず、基幹ルーターやフロアスイッチにも不安がありました」

インターネットを常時利用していなかったときは、その環境でも大きな問題はなかった。状況が一変したのは2020年のこと。コロナ禍による全国一斉休校を受け、同校でもオンライン授業を開始せざるをえなくなったのだ。

「動画のコマ落ち」が発生する、不十分なネット環境

ネットワーク管理者を務める保健体育科教諭の三輪明彦氏は、授業のICT化に苦労したと明かす。

中央大学附属中学校・高等学校
保健体育科教諭
情報システム部(ネットワーク管理者)
三輪明彦 氏

「回線が弱かったので、動画を配信するのは困難でした。Web会議システムを活用して卓球の授業を試みたことがありますが、いわゆる『コマ落ち』(※2)がかなり発生しました。ラケットを構えたところで画面が止まり、画面が動き出したら、すでに球を打ち終わっているところ、というような状態でした」

脆弱なネット環境でも対応できるよう工夫を凝らし、双方向でのオンライン授業は限定的にして授業動画を別途撮影。学習管理アプリを介してそのURLを生徒に伝え、回線の混雑を防いだ。ただし、急なオンラインシフトだったこともあり、生徒側の端末のスペックをそろえるのは簡単ではなかったと三輪氏は振り返る。

「ご家庭で端末を用意していただくようお願いしましたが、学習に使うにはある程度の画面の大きさが必要です。課題に取り組むにはキーボードもあったほうがいいなど、最低限のスペックをお示ししましたが、『いきなりすべてはそろえられない』という声も多く寄せられました」

今後も、パンデミックに限らず、いつどのような非常事態が起こらないとも限らない。加えて、ICT化の波はさらに大きくなっていくだろう。そう考えた三輪氏をはじめとしたICT委員会は、生徒の私物端末を学校に持ち込むBYODではなく、学校側で端末を用意するBYADでの「1人1台端末」の導入を提言し、それが学校の方針となる。しかし、そのためには、無線LAN環境の整備が必須だった。

「コロナ禍で開始した家庭におけるオンライン授業では、PCや通信環境が家庭にない生徒には、端末やモバイルルーターを貸し出すといったことで対応していました。それをきっかけに、本格的にICTをベースにした学習活動を展開することになり、従来の有線LAN環境では対応できないため、無線LAN環境を整備することにしたのです」(三輪氏)

※2 コマ落ち:動画を再生する際、音声や画像が一瞬途切れる現象。フレーム落ちとも呼ばれる

各学校の事情に寄り添う「顔の見える対応」が高評価

複数の事業者を検討し、同校が選んだのはアライドテレシスだった。アライドテレシスは日本発でグローバルに展開するネットワーク機器専業メーカー。文教分野では、GIGAスクール構想や校務DXを支援する製品やソリューションを提供している。

「アライドテレシスさんにお願いすることにした最大の決め手は、当校にフィットした提案をいただけたことです。事務としては、学校全体の運営を考慮する必要がありますが、予算などの制約への対応や、既存の環境もしっかり生かしたいとの思いを酌んで、きちんと反映された提案をしていただきました。最終的にアカデミック製品(文教ユーザー向け専用のアカデミック製品。実質無償で有償サポートサービスが5年間付帯する)を利用することで、コストパフォーマンスも高い内容で導入することができました」(江尻氏)

書面や口頭だけでは伝わりにくい部分まで、密なコミュニケーションで酌み取ってくれたと、選定交渉を担った江尻氏は明かす。アライドテレシスの執行役員で、東京営業本部長と文教推進室長を兼務する小泉卓也氏は、この評価に対し次のように答えた。

アライドテレシス
執行役員 東京営業本部長 兼 文教推進室長
小泉卓也 氏

「アライドテレシスは全国に41の拠点を展開していますが、地域密着型の『顔が見えるメーカー』をポリシーとし、教育機関に対応するべく文教専門チームも編成しています。例えば、一般企業では、ネットワークにアクセスする時間は分散されますが、学校の場合、授業開始のチャイムと同時に一斉にネットワークへアクセスするなど、特有の対応が必要な状況があります。現場によって条件なども異なりますので、入念な調査とヒアリングは欠かせません」

現場の調査では、さまざまな測定器を活用するほか、教室の数に合わせて数十台のPCを用意し、同時に動画を配信するテストなども行う。そのうえで、実地検証に基づいた製品やソリューションを提案する。そのため、導入後の齟齬(そご)も生じにくいという。実際、アライドテレシスのサポートで無線LAN環境の整備を終えた2022年9月以降、「校内ネットワークでトラブルは発生していない」(三輪氏)そうだ。

そうした現場重視の提案は、単なる「つながる空間」ではなく、学びやすい空間の創出にも貢献している。

「中央大学附属中学校・高等学校は『校則のない学校』といわれるほど自由な雰囲気で、生徒の自主・自律を尊重しています。高校においては、授業中に検索のためスマートフォンを使うのも許可しているほどです。そこで、共用空間でもネットワークへアクセスしやすいように、セキュリティーにも配慮した認証サーバーの設置を提案させていただきました。ID・パスワードさえ正しければ、校内どこにいてもネットが使えるようにしたのです」(小泉氏)

ネット環境の安定が「教員の働き方改革」にも貢献

安定した無線LAN環境の実現は、学びの幅を広げただけでなく、生徒の自律性を従来以上に引き出す効果も生んでいる。

「大容量の通信が可能になったことで、活用できるアプリケーションが増えました。また、『1人1台端末』との相乗効果でもありますが、全員が同じアプリケーション上で意見を伝えることができるため、人前での発表や挙手ができなかった生徒がきちんと意見を出せるようになっています。これまで声が届きにくかった生徒たちの声がはっきりと聞こえるようになったのは、大きな変化です」(三輪氏)

校長の石田氏と事務室の江尻氏は、校務DXが進んだ手応えも感じている。

「職員会議は本当にペーパーレスになりました。オンラインストレージ上のファイル番号を伝えてその場で開くのが当たり前になり、印刷や保管の手間がなくなったことで、業務の負担が減ったと思います」(石田氏)

「例えば教室の予約表は、以前は学校内のサーバー上にあり、専用端末からアクセスする必要がありました。しかし今はクラウド上に置かれているため、個人端末から、IDとパスワードを使用し学校のネットワークに入り、どこからでもアクセスし、教室の予約をすることが可能です。そういった各種手続きや連絡などが非常にスムーズになったため、結果的に先生方の働き方改革を進められたと感じます」(江尻氏)

英語科の本多先生(左)と、数学科の苅野先生(右)。どこからでも、安定した無線LANにつながるので、資料作りなど、柔軟に仕事ができる

江尻氏が指摘した教員の働き方改革をさらに推進するとともに、さまざまな事情で学校に通えない生徒に、より臨場感を増したオンライン授業の仕組みを構築したいと語る校長の石田氏。安定したネットワーク環境の実現によって、ICT化への取り組みにさらなる意欲がかき立てられているようだ。

「生徒の学習環境をさらに充実させ、先生方の負担を減らすためには、ICTの活用が不可欠だと思います。また、私たちが大切にしている『自主・自治・自律』の自由な校風を守るためにも、ハード面だけでなく情報セキュリティーの意識を高めることも重要でしょう。そうした対策も含め、アライドテレシスさんには、今後もぜひいろいろな知恵を貸していただきたいと思っています」(石田氏)

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