毎朝15分の朝会を撤廃し、児童と向き合う時間が増加
全校児童419名の国立大学法人上越教育大学附属小学校(以下、上越教育大学附属小学校)は、「生き生きとした子ども」を教育目標に掲げ、体験重視の創造活動を中核とする教育を展開している。
同校のICT教育の構築を牽引する校長の清水雅之氏は、長年にわたりICT活用を踏まえた指導力育成を専門に研究。文部科学省のICT活用教育アドバイザーとしても活動し、アカデミアと行政を横断して教育現場のデジタル化に尽力してきた。
清水氏は、学校の働き方改革の必要性が世間に周知され始めた頃、同校の校長に就任。すでに児童の授業や学習だけではなく、校務においてもICT活用を推進し、出欠や成績の管理などデジタルシフトしていた部分は多々あった。
だが、教員間のコミュニケーションにもICTによる改善の余地があると感じていたという。とりわけ気になったのは、「慣習となっている非効率な情報伝達手段」だった。
「当校では、毎日8時15分から教職員室で朝会を実施していました。朝会は、主に教頭が教職員に向けて児童に伝えてほしいことや、業務連絡などを伝える場として機能していたのです。ただ、これが本当に必要な時間なのか常々疑問でした。拘束時間は15分と短かったものの、教職員たちは10分前には自席にいましたし、さらに朝会が終わって各教室に行くまでの移動もあります。前後を含めたこうした時間を、児童との時間に割けるように工夫するべきではと」(清水校長)
そう考えていた矢先、ビジネスチャット「LINE WORKS」を知った。ICTのトレンドに詳しい清水校長は、LINEの黎明期から次世代のコミュニケーションインフラとして台頭することを見越し、LINE WORKSの活用を提案した。当時は校長職にはなく、上越教育大学附属小学校に隣接する研究センターに在籍し、同校に向けてICT活用や教員の働き方についての提案やアドバイスを行っていたという。
こうして、実証実験の位置づけで2019年からLINE WORKS の利用がスタート。当時の副校長や教頭からは「とにかくいろんな場面で使ってみよう」と声がけするにとどめ、トップダウンで使い方のレギュレーションを決めるのではなく、あくまでも教職員の自主性に委ねて運用を始めたという。
現在、教職員の朝会は廃止。伝達事項がある場合はその都度テキストにして、教頭がLINE WORKSで一斉送信している。朝会を取り仕切っていた教頭の長野哲也氏は、導入の効果について次のように話す。
「朝会は時間が限られており、要点をかいつまんで伝えなければいけません。ただ、教職員によっては内容を取り違えてしまったり、忘れてしまったりすることもありました。その点、LINE WORKSは文章として残せますし、画像も送れるので、伝えたいことを的確に伝えられます。また、教職員ごとに既読・未読の状態がわかるのでリマインドしやすいです」
朝会の廃止以降に同校に赴任した主幹教諭の岡田啓吾氏は、教頭からの伝達に不便を感じたことはなく、むしろ児童指導にも有効活用できているという。
「例えば、片付け方やトイレの使い方など、口頭だけではうまく指導できないこともあります。そうした事柄については、教頭がLINE WORKSに写真を添付してくれるので、モニターにその写真を投影して『これについてどう思う?』と児童に投げかけるようにしています。具体的な指導をしやすくなったことで、児童自身の改善にも結び付きやすいように感じています。また、職員室で朝会をしている時間を、教室で児童と直接向き合う時間に費やせるところもメリットだと思います」(岡田氏)
LINE WORKSが避難訓練の方法を見直すきっかけに
朝会と同じように、LINE WORKSは教職員のコミュニケーション手段として自然と浸透していった。LINEでおなじみのチャットやスタンプを活用したやり取りができるトークルーム「職員室」は、教職員全体の情報共有の場として活用されている。
そのほかにも、学級担任だけのグループや管理職だけのグループなど、役割に応じて派生的にトークルームが拡充しているそうだ。
上越教育大学附属小・中学校のLINE WORKSの利用に関するアンケート調査では、「かなり便利・まあ便利」だと回答した教職員は100%に上る。理由として多く挙げられたのは、「リアルタイムの情報共有」「周知の徹底」などだ。
以前、教職員室のホワイトボードで教職員へのリマインドなどをしていた長野教頭は語る。「ホワイトボードに文字がぎっしりと書き込まれてしまい、情報の優先度や重要度の判別が難しい状況でした」。現在はLINE WORKSの導入を1つのきっかけに教職員がスマートフォンを持ち歩くことが当たり前になり、すぐに伝えたい生徒指導上の情報や緊急を要する際の連携がスムーズになったという。
とくに活用意義を実感したと振り返るのが「コロナ禍での避難訓練でした」と副校長の青木弘明氏は次のように説明する。
「従来の避難訓練は、一次避難先として体育館に全校児童を集め、公園などの二次避難先に向かう流れでした。しかし、コロナ対策で一次避難先を体育館だけではなく、3カ所に分散することにしました。それにより、各所で児童たちがしっかり避難できているかどうか、二次避難先に到着したかどうかなど、3カ所の離れた場所から連絡を取り合う必要が出てきたのです。その際にLINE WORKSを活用したことで、一斉かつリアルタイムに情報を発信でき、共有に滞りがありませんでした」
分散避難はあくまでもコロナ禍の措置だったが、むしろ災害時の実情に則しているのではないかと気づかされたという。
「全員が体育館に一次避難するよりも、教室などから直接二次避難先に向かったほうが早いケースもあります。わざわざ時間をかけて全校児童が体育館に集まることが現実的なのか、疑念が湧きました。実際に災害が起きたら、指示を待っていられないほど緊急で判断せざるをえない場合もあるわけです。そうした状況でも、トーク(チャット)やグループ通話で報告さえすれば、各クラスの避難状況をリアルタイムで把握できます」(青木副校長)
今後もコロナ禍に限定せず、LINE WORKSを活用した避難訓練の形を模索していくという。LINE WORKSは、校務の効率化やコミュニケーションの合理化にとどまらず、万が一の災害時に命を守るための手段の1つとして、なくてはならない存在になっているようだ。
「2070年代まで仕事をする子ども」の教育に今、必要なこと
「LINE WORKSを導入したことで、教職員どうしのあらゆるコミュニケーションの質がよい方向に変わった」と手応えを語る清水校長。コミュニケーションコストを削減したことで、教育の本質である「児童理解」に時間を振り向けられるようになったと感じているという。
また、ごく自然に教職員に浸透した理由については、「LINEのように気軽なやり取りができる機能性」はもとより、LINE WORKSとLINEを使い分けたことが大きいと清水校長は分析する。
「LINE WORKS導入以前からLINEを使っていた教職員はいました。ただ、校務でLINEの活用に至らなかったのは、多かれ少なかれ抵抗感があったからだと思います。LINEはあくまでもプライベート用で、LINE WORKSは仕事用のツールだと分けたことで、かえって割り切って使えたのではないでしょうか」(清水校長)
ICTの活用に詳しい清水校長は、これからの教育現場に必要な姿勢は、「つねにアンテナを張り便利なICTツールがあればすぐに取り入れ、試してみること」だと語る。
「今の小学生が定年を迎えるのは、2070年代以降となるでしょう。その時代まで活躍できる人材に必要な基礎力を身に付けるには、どういう力が必要で、学校教育で何を学んでもらうべきなのか考えなくてはいけません。そのためにも、学習と校務の両面で、今世の中に浸透しているICTツールをいち早くキャッチアップし続けることが重要だと考えています」(清水校長)
清水校長の言葉を通して見えてきたのは「LINE WORKSが教育現場にもたらす価値」の本質は、教職員の円滑なコミュニケーションの先にある「次世代を生きる子どもの目線に立てること」ではないかということ。
3年間にわたりLINE WORKSを現場主導で積極的に使ってみたことで、利便性を体感し、新たな活用方法が現場で自然発生し、教育現場のコミュニケーションのあり方は確実に変わっているという。体験を重視した創造活動を標榜する同校は、教職員の校務においてもICTツールの体験を通して、新しい働き方や教育を探索していた。
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