一見整備されているデジタル環境だが、実は…

保護者との連絡手段をデジタル化することについては、2020年10月に文部科学省が通知を発出。「押印の省略や学校・保護者等間における連絡手段のデジタル化を進めることは、迅速な情報共有を実現するとともに、学校・保護者等双方の負担軽減にも大きく寄与するもの」として、各教育委員会にデジタル化への移行支援を促した。

それから約2年。デジタル環境自体は、ある程度整ってきているように見える。文科省が2021年12月に発表した調査結果※1によれば、都道府県の教育委員会の87.2%、市区町村の教育委員会の56.3%が「保護者との連絡手段のデジタル化に取り組んでいる」と回答しているのだ。この結果について、教育ICTの先駆者的存在として知られるClassiの小中事業開発部プロダクトマネージャーの米谷和馬氏は、次のように分析する。

※1出典:文部科学省「令和3年度 教育委員会における学校の働き方改革のための取組状況調査結果」(「保護者との連絡手段」についてはP50〜の表・21番目の項目に掲載)

「東日本大震災をはじめとした自然災害の多発を受け、緊急時の連絡ツールとしてメール配信システムの整備が進みました。他方で、緊急時しか使われなかったり、メールとプリント配布を併用したりしているケースが目立ちます」

せっかくインフラが整備されたのに、なぜフルデジタルへ移行しないのか。Classiが2021年10月に実施した調査が、その理由を明らかにしている。地方自治体の教育委員会および教育関連部署800カ所に「学校と保護者間の連絡手段における課題感」を自由回答式で聞いたところ、「システムから添付資料を送れない」が挙げられたのだ。セキュリティー対策が講じられたシステムなのだろうが、結果的にプリントは従来どおり印刷・配布せざるをえない。

Classi小中事業開発部プロダクトマネージャー・米谷和馬氏(右)、小中事業開発部 カスタマーサクセスチームリーダー・峰岸祐太氏(左)

ならば新たなシステムや使いやすい連絡ツールを導入すればよいのでは、と考えるところだが、そううまくはいかないと米谷氏は話す。

「費用の問題が立ちはだかります。私たちは、いろいろな自治体の教育委員会や学校の先生にヒアリングをしていますが、保護者連絡ツールの予算を確保するのは想像以上に難しいようです」

とりわけ公立校の場合、そのハードルは高い。ただでさえ限られた予算は、当然ながら「児童・生徒のため」が優先されるからだ。保護者との連絡手段をデジタル化したいとの思いはあっても、機能不足なツールの存在と予算の厳しさがその実現を阻んでいるのである。

学校DXの実現を見据えて下した決断とは?

そうした状況を変えようとClassiが開発した保護者連絡ツールが「tetoru(テトル)」だ。保護者からはアプリとして使うことができ、教員は保護者からの連絡をブラウザー上で見ることができる。また、標準でファイル添付送信機能が搭載され、無料で提供されている。しかも、無料サービスにつきものの広告表示もいっさいなしだ。なぜ、ここまで“献身的”な仕様としたのか。米谷氏は、自身の経験が大きかったと明かす。

「私の子どもが幼稚園に通っているとき、園との連絡はアプリが基本でした。ところが、小学校に入学した途端、アナログに逆戻りしたのです。大量のプリントが配られ、何かあれば電話で連絡しなければならない。私だけでなく、周囲もそのギャップに戸惑っていました。保護者と先生のコミュニケーションがうまくいかないだけでなく、双方ともにかなり大きな負担がかかりますから、結果的に子どものためにもなりません。それなら、弊社が培ってきた開発経験やサポートの知見を小中学校領域に生かしたいと考えたのです」

ClassiがICT教育に果たしてきた役割は非常に大きい。ベネッセホールディングスとソフトバンクの合弁会社として2014年に設立されると、翌年には社名と同名の教育プラットフォーム「Classi(クラッシー)」を全国展開。今や、全国の高校の半数以上が導入しており、これまで利用してきた100万人以上の保護者※2のフィードバックも豊富に得ている。

※2 2019年度からの累計ユニークユーザー

これらのノウハウを惜しみなく注ぎ込んだだけに、当初「tetoru」は有料サービスの予定だった。しかし、前述したような教育現場の状況を把握したことで「まずは学校と保護者の連絡をスムーズにすることを優先しよう」と無料提供を決断。それは、デジタル化への厚い障壁を乗り越え、校務の効率化と質の高い教育を実現する「学校DX」を目指そうとする覚悟の表れなのかもしれない。

劇的な「校務効率化」を促す欠席連絡機能

学校DXを目指す「tetoru」の志の高さは、すでに導入校にも伝わっているようだ。2022年4月に正式リリースされるや、約3カ月で導入校が250校(13自治体)を突破。保護者とのコミュニケーションが円滑になっただけでなく、「教員の働き方改革を推進できる」との評価を受けている。カスタマーサクセスチームのリーダーを務める峰岸祐太氏は、次のように説明する。

「とくに管理職の先生方に注目いただいているのは『欠席連絡』の機能です。保護者のアプリから送信された内容を、PC端末で一元管理できるので、朝の忙しい時間に電話対応せずに済むと喜ばれています」

欠席の電話連絡は、始業時間に合わせて朝7時半から受け付けるケースが多い。そこに合わせて電話する保護者も大変だが、勤務時間外に本業ではない電話当番をする教員の負担はかなりのもの。規模によっては4名体制を敷いている学校もあり、当番のシフトを組むのも一苦労だ。そんな状況が、「tetoru」を導入するだけで急変したという。

「複数回線の電話が毎朝フル稼働していたのに、導入後はまったく鳴らなくなったという声をいくつもいただきました。あと、副次的な効果として、情報の連携がスムーズになったとの反響が多いですね。電話の場合、保護者の方も急いで情報を省略して伝えたりしますし、先生間の引き継ぎでも抜け漏れが生じがちです。しかし、『tetoru』なら24時間いつでも連絡を入れられますし、備考欄にコメントも入力できるので保護者の言葉をそのまま担任の先生に伝えられます」

左は保護者側が使う「欠席連絡」の画面。アプリなので、早朝でも気兼ねなく連絡できる。右は教員が使う管理画面のトップ。見やすいレイアウトで、「学校が配信した連絡」「直近の欠席連絡」が一目で把握できるようになっている

名簿はCSVで一括登録が可能

操作性に優れているのも見逃せないポイントだ。開発を手がけた米谷氏は「なるべくシンプルに、誰でも使えるように」を意識したというが、初見でも直感的に使いやすいUI(ユーザーインターフェース)となっている。保護者の利用登録もスムーズで、操作方法がわからないという問い合わせはほぼないと峰岸氏は話す。

「保護者の方のご利用登録は、わかりやすいよう3ステップにまとめており、お知らせの文書が標準で用意されています。導入いただいた学校の中には、約1週間で保護者の登録率が90%に到達したところもあります」

保護者に配布する「ご利用登録の案内」。画面の指示に従うだけで簡単に作成できる

保護者を混乱させることなく新たなツールへ誘導することが、教員の負担軽減につながるのは言うまでもない。加えて、初期設定や名簿管理などのメンテナンスも簡単にできるよう設計されている。とくに、年度末の名簿作成は煩わしい校務だが、Excel等から書き出すことのできるCSVファイルから一括登録も可能。tetoruと連携が可能なEDUCOMの校務支援システム「EDUCOMマネージャーC4th」※3を学校が導入していればほんの数分で名簿登録が完了する。こうした連携機能により、「tetoru」の画面上で確認し、教員自身が「C4th」に入力していた欠席情報をより効率的に管理できるようになる。「tetoru」単体での使用よりも、さらに「教育現場の働き方改革」に寄与することは間違いないだろう。

※3 「EDUCOMマネージャーC4th」は、業界トップシェアクラスの統合型校務支援システム。2022年7月時点で約460自治体約8900校が導入している。なお、統合型校務支援システムとは、教務系(成績処理、出欠確認、時数など)・保健系(健康診断票、保健室管理など)、指導要録などの学籍関係、学校事務系などの統合した機能を有するシステムのこと

「現在『tetoru』は、連絡帳や電話で行われていたコミュニケーションをデジタル化し、『学校や先生の業務負荷軽減』と『保護者の学校理解促進』の双方を促せる仕組みとなっています。今後はさらに進化し、成績や生活の様子、学習状況や成果物などを可視化する『子どもたちの成長を見守るシステム』を実装する予定です」

その先に見据えるのは、子どもに最も身近で関わる大人である教員と保護者が強い信頼関係でつながり、子どもにとってよりよい環境をつねに模索していく世界。米谷氏は、そのハブとしての役割を「tetoru」が担いたいと語る。

無機質なイメージが強いデジタル世界だが、実はお互いが伝え合い、心を通わせ合い、手と手を取り合うような温かいつながりが生み出せる――。「tetoru」がもたらす新たな教育体験は、教員の働き方改革を推進するだけでなく、そんな新たな発見も連れてくるのではないだろうか。

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