原子力発電への批判に「トイレなきマンション」がある。放射性廃棄物の処理方法を決めないまま原発を利用する問題点をわかりやすく示している。一般的に、善後策を講じずに進められる無責任な行為にも使われる表現だ。
差し迫った事態に、見切り発車で対処しなければならない状況はある。しかし、とくに国の政策の場合、どこかできちんとした出口戦略を考える必要がある。
念頭にあるのは原発ではない(それも問題ではあるが)。日本銀行による金融政策、中でも上場投資信託(ETF)の購入についてである。2010年に金融緩和政策の1つとして始まった日銀のETF購入は、簿価で35兆円、時価で51兆円を超えるまで積み上がっている(21年3月末時点)。今や日銀は日本最大の株主だ。
国民への譲渡案
日銀の保有額が膨らむにつれ、株式市場の流動性や企業のガバナンスを歪める副作用、株価下落による日銀の財務毀損リスクの増大が指摘されている。だからといって、手仕舞いも難しい。日銀がETF売却に動き出せば、そのこと自体で株価は急落するため大きな損失を被りかねないからだ。
そうした心配から専門家の間では出口戦略が議論されている。一時話題となったのは、日銀が保有するETFを政府が買い上げて国民に譲渡する案だ。提唱者には日銀元理事が含まれ、アジア通貨危機時には香港で似た政策が採られたことがあったというから、あながち荒唐無稽な話ではないらしい。
実際に行うなら、ETFを時価より割り引いて販売し、一定期間の継続保有を促す仕組みなどが前提になるだろう。野村総合研究所によれば相続資産規模の推計額は年間50兆円。これをうまくETFに誘導できれば、長年叫ばれてきた個人金融資産の「貯蓄から投資へ」にもつながる。もっとも、有償では購入できない人が出てくるうえ、優遇策を講じれば「金持ち優遇」批判が巻き起こることは間違いない。実現のハードルは高い。
ただ、経済政策では、当初は荒唐無稽といわれていたものが、後に当たり前になることもある。ゼロ金利政策やヘリコプターマネーと呼ばれるばらまき政策がそうだ。コロナ禍を受け、日本や米国で国民への現金給付が実施された。
ならば、全国民にETFを無償でばらまく政策が数年後には行われているかもしれない。それでは日銀の出口政策にはなっても、政府に膨大な借金が残るだけではあるが。いずれにしろ、日銀にもトイレの設置が急務だ。
(アスラーダ)



















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