著書『ジャパン・アズ・ナンバーワン』で一世を風靡した知日派社会学者のエズラ・ヴォーゲル氏が、この30年の日本と世界を総括する。
『ジャパン・アズ・ナンバーワン』日本語版の序文で私は次のように書いた。「日本人も傲慢の虜になる危険性はある」。
この本は実際、日本が米国を追い抜くとも世界一になるとも書いてはいない。米国の世論に根強くあった日本の実力を軽視する見方に対し、日本社会の強さを米国人向けにわかりやすく紹介するのが執筆の狙いだった。
私は社会学者としての立場から、日本人の文化や教育、企業制度や官僚制度などを概観して、社会構造としてよくできていると主張した。今でもその骨子は間違ってはいなかったと思っている。
だが強烈なタイトルに目を奪われた日本人は、序文の警告に注意を払わなかった。ある日本の財界人は当時、米国から学ぶべきことは何もない、と平然と言ってきた。1980年代に会った別の日本の証券会社の幹部も傲慢な応対ぶりだった。円高ドル安と大規模な金融緩和を好機に、外国で土地や株を買いあさった。かつては非常に謙虚だった日本人の性格が変わってしまったかに見えた。ハーバード大学で同僚だったエドウィン・O・ライシャワー氏が冗談めかして「この本は米国では必読書だ。だが日本では発禁にするべきだ」と言ったのは的を射ていた。
バブル崩壊後も、私は日本の成長力は底堅いと信じていた。今思えばこれは少し楽観的だった。不良債権処理や情報化、グローバル化への対応にこれほど手間取るとは思っていなかった。
代わって、世界の注目は中国や台湾、韓国などの東アジア(東南アジアを含む)の成長に集まるようになった。賃金は低いが、労働者は勤勉で技術蓄積の早いこうした国々は、日本のことを本当によく研究していた。
私の本も東アジアの指導者層によく読まれた。台湾ではベストセラーになり、一度講演に行ったときは1500人ぐらいの聴衆が集まった。中国の朱鎔基氏、シンガポールのリー・クアンユー氏は、日本のことを勉強するために、本書を読んだと言ってくれた。韓国は少し事情が複雑で、日本を称賛する本だから表立って出版しにくい。本はこっそりと翻訳され、政治の指導者たちにコピーが出回った。結局私の手元に1ドルも入ってくることはなかった。






















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