マッタレッラ伊大統領の深謀 組閣案蹴りユーロ離脱回避
マッタレッラ大統領が反EU(欧州連合)で知られるサボーナ氏の経済・財務相就任案をはねつけたことから、イタリアは政治的危機に陥った。総選挙に勝利した二つの反体制派政党「五つ星運動」と「同盟」による連立政権はサボーナ氏を財務相に充てようとしていた。しかし、同氏は統一通貨ユーロからの離脱を公然と主張。このような人事を認めればユーロ離脱を引き起こしかねない、とマッタレッラ氏は考えた。
この決断は激しい反発を招いた。五つ星運動のディ・マイオ党首は大統領の弾劾を要求。同盟のサルビーニ党首は再度の総選挙実施を求め、「イタリアが自由の国となるか、奴隷の国となるかを決める国民投票になる」と語った。
欧州でユーロ離脱が政治問題化するのは、これが初めてではない。が、組閣をめぐる法律問題に直接発展するのは今回が初めてだ。
金融市場ではイタリア国債が急落した。しかし、イタリアの政治危機で最も重要なポイントは憲法解釈の問題が持ち上がったことにある。マッタレッラ氏は組閣案を拒んだが、これは有権者の判断ではユーロ離脱を決められないということを意味するのか。民主的な選択とはどの程度の力を持ちうるものなのか。これらは、欧州全域をも揺るがしかねない根本問題だ。
マッタレッラ氏は決断の理由をこう説明している。有権者がユーロ離脱を求めることには反対しないが、そのためには開かれた真摯な議論が欠かせない。総選挙ではユーロ離脱が公約になっていなかったにもかかわらず、連立政権はサボーナ氏の財務相就任にこだわった。そのため、大統領には組閣案を拒否する憲政上の義務があるとの結論に至った、というのだ。
マッタレッラ氏は、通常の政治と憲法の問題を分けて考えた。その理屈はこうだ。通常の政治的選択は国会の過半数で自由に決められる。大統領に介入権限はないが、憲法にかかわる選択はこれと異なり、有権者がしっかりとした情報を持ったうえで決断せねばならない。憲法上の選択に必要なまじめな議論が存在しない以上、大統領には現状維持の義務がある、と。
これは理にかなった判断といえよう。人権を守り、政体を定義するのが憲法だ。憲法の改正はもちろん可能だが、国会の過半数では足りず、圧倒的過半数が必要になる。国によっては国民投票も実施しなければならない。通常の政治的選択とは異なるということだ。
ここで問題が二つ出てくる。一つは、憲法上の問題をどう定義するかだ。EU加盟国には、EU加盟を基本法によって根拠づけている国が多い。つまり、通常の国会手続きでは離脱を決められないということだ。だが、憲法の適用範囲は広く、極論すればEU関連のすべてが憲法問題ということになる。線引きのあいまいなことが、混乱の起点となっているのだ。
二つ目は、憲法上の選択にまつわる意思決定プロセスをどうするかだ。EUはリスボン条約第50条にのっとって英国のEU離脱手続きを進めている。が、離脱手続きを憲法で定めている国は少ない。英国は僅差の国民投票で軽々しくEU離脱を決めてしまったが、これではまるでロシアンルーレットだ。
EUが広く支持されている状況なら、法律家しかこんな問題に関心を持たなかっただろう。だが、状況は変わった。今こそ、憲法上の問題とそうでない問題とを明確に線引きし、反EUの動きが政治危機に発展するのを防ぐべきだ。
ユーロ離脱の影響は巨大であり、これを憲法問題と考えたマッタレッラ氏の判断は正しい。EUやユーロは憲法の奴隷であってはならないが、国民の過激な思いつきの奴隷であってもならない。バランスが求められているのである。





















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