「19時10分くらいに先生が来られますので、少々お待ちください」
私はある媒体の企画で、とある高名な方と対談をするために、出版社の応接室にいた。対談をまとめてくれるライター、カメラマン、担当編集者の方と歓談しながら弁当を食べていたが、約束の時間を10分ほど過ぎると、編集者が壁の時計を見ながら言った。
「ちょっと遅いですね。今日だったっけ? だなんて、先生、今頃晩酌中だったりして。ハハハ」
応接室の全員は、ブラックジョークとして笑い、話を続けていた。
19時半になると、編集者が「先生は時間に正確な方なんです。おかしいな」と言ってパソコンでメールを打ち始めた。
すると、その編集者は「うっ」と小さなうめき声を漏らした。顔色がみるみる変わっていく。私は病気やケガでもないのに顔色が青白くなっていく人を初めて見た。「血の気が引く」とはまさにこのことだと思った。
いつの間にか歓談は終わり、静寂の中でわれわれは、編集者を見つめていた。すると、顔をクシャクシャにして、頭頂部をかきむしり、「しまったぁ……」と天を仰いだ。起きている事態はだいたい伝わったが、私はたまらず聞いた。
「どうしました?」
「申し訳ございません! 私が先生に、いくつかの候補日から今日に決まったと最終連絡するのを失念しておりました」
「えっ、ほんとですか!」
私は反射的にそんなことを言い、ほかの人は「やばい」「まずい」「どうしよう」と言って焦っていた。というのも、対談の掲載日が迫っていたし、私の当面のスケジュールがこの日以外、全部埋まっていたからである。
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