初の取組だからこそ、ITのプロと連携

当初、2023年度中までに「1人1台端末」の整備を目指していたGIGAスクール構想だが、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府は計画を大幅に前倒しした。結果として、20年度末時点でほとんどの自治体が端末の調達・配備を完了している※。

ICTを活用した教育が本格的に始まるのに合わせて、特徴的な動きを見せた自治体の1つが鳥取県だ。21年度を「学びの改革元年」と位置づけて県教育センターに「GIGAスクール推進課」を新設。さらにインテルと連携協定を締結し、ICT活用教育を県内の全小中学校等に普及させる「とっとり学び方改革」を共同で推進していくと発表した。

「『とっとり学び方改革』は、東部・中部・西部の4中学校区をICT活用教育推進地域と定め、全13校を推進校、1校を『学びの創造先進校』に割り当てて集中的に先進的なICT活用教育を実践するものです。県の指導主事等を各校へ重点的に派遣し、その取組内容を公開授業やライブ配信『とっとりGIGAスクール構想推進チャンネル』(以下、GIGAチャン)、学校教育支援サイト等で周知していく仕組みを整えています。」

県とインテルのタッグで、ICT活用教育を推進。モデル校に指導主事等を派遣してICT活用教育を実践し、その取組を公開授業や動画を配信して普及を図っている。

そう説明する鳥取県教育委員会事務局小中学校課学びの改革推進室の吉田達也氏は、ICT活用教育の推進にあたりインテルとタッグを組んだ理由について次のように話す。

鳥取県教育委員会事務局
小中学校課学びの改革推進室
吉田達也氏

「一気に1人1台端末の環境が整いましたが、『何をどうしたらいいのかわからない』と困惑する学校や先生方もいるのではないかと考えました。鳥取県としてもICT活用教育の推進は初めての試みです。正しい方向性を保ちながら着実に進めるにはどうしたらいいか検討し、豊富なノウハウと知見を持つインテルさんと連携協定を結びました。」

※ 文部科学省は、2021年3月17日に97.6%の自治体等が端末の配備およびインターネットの整備を完了する見込みだと発表した。その後、同年10月に、「確定値」として7月末時点で96.2%の自治体等が端末の配備およびインターネットの整備を完了したと発表している

「移動時間不要」により研修に参加する先生が増加

インテルは半導体メーカーとして知られるが、実は長年にわたって教育現場でのIT活用サポートにも力を注いでいる。「学びの創造先進校」で行われるPBL(プロジェクト学習)の教員研修カリキュラムも20年以上展開してきた実績がある。鳥取県教育委員会とは月1回ペースで定例会を実施し、そのノウハウを生かしているという。

オンラインで実施する公開授業やGIGAチャン等の情報発信や研修会も、インテルのアドバイスを受けたことで大きく変わった。注目すべきは、従来の公開授業や研修会と比較して、精度だけでなく頻度も上がったことだ。「実施した回数はトータルだと数十回にのぼります。特に多いのは研修会や連絡協議会で、学力向上や生徒指導等さまざまなテーマで実施しています」と吉田氏。

オンラインでの開催はコロナ禍での代替手段として受け止められがちだが、むしろポジティブな効果を得ているという。

「なんといっても、移動時間が不要となったことは大きいです。鳥取県は東西に長いため、例えば西部地区の先生が東部地区で開催する研修会に出ようとすると一日仕事になっていました。しかし、オンラインだと長時間の移動も不要で気軽に参加できるので、『興味のある研修に参加しやすくなった』という声を多く聞きました。」(吉田氏)

当然、ICT活用教育に関する研修にも参加しやすくなる。事実、従来100人集まる研修会はまれだったというが、インテルとの共催で複数回開催したGIGAスクール推進の第一人者の講演会には、初回から100人に迫るほど大盛況だったという。ICT活用教育の推進が、子どもたちのみならず教員の教育機会も充実させているのである。

「個に応じた指導」がしやすくなった

その成果は、学校現場でどう生かされているのだろうか。推進校3校のICT教育の取組を取材した。

西部地区の大山町立名和小学校では、教員が作成したドット図に児童が各自の端末で書き込みながら数を求める式を立てたり、理科の実験を写真や動画で記録したりといった各教科等の学びを確かなものにするための取組を行っている。

「その場で記録して共有・可視化できるのが今までと違うところです。子どもたちの理解が深まりやすく、それをもとに話を広げられました。さらに、学習のポートフォリオをデジタルで残せますし、それを使ってホワイトボードアプリの『Google Jamboard(ジャムボード)』等で学習の振り返りの共有もできます。」(西部教育局 指導主事 三村直樹氏)

東部地区の鳥取市立倉田小学校は、「慣れる」を初年度の目標に掲げ、端末を使う授業を毎日1コマ設けている。1年生から6年生まで端末に触らない日はないため活用の幅が広がるとともに、教員もさまざまな教科でICT活用教育に取り組めるので意識が高まっているという。

「ICT活用の効果として感じているのは、“個に応じた指導”がしやすくなったことです。一人一人のペースで問題が解けるため、理解が早い児童は難易度の高い問題にも取り組むことができます。一方、その学習内容が苦手な児童は先生の支援を受けながらじっくり取り組むことができ、理解の定着が図られています。また、人前での発言が苦手な児童も自分の意見を示すことができるため、クラス内の意見交流が活発となり、協働的な学びが広がってきました。各教科において、簡潔かつ興味を引く課題提示の工夫ができ、児童の学習意欲も高まっています。」(東部教育局 指導主事 広沢栄貴氏)

こうした日常での活用だけでなく、他校との交流授業という従来だとハードルの高い企画をオンラインで実現させたのが、中部地区の倉吉市立小鴨小学校だ。「平和学習」をテーマに3校での遠隔合同授業を実施した。

「総合的な学習の時間」を利用し、3校合同で実施した遠隔授業。スクリーンに画面を映しながら発表等を行った。

「他校と学び合い、伝え合う活動によって、これまで得られなかった深い学びが実現できるのではないかと期待し、結果として予想以上の成果が得られました。授業後にアンケートをとったところ、『自分のクラスだけでは学べなかったことが学べた』と肯定的に振り返る児童が多数いたほか、他の意見への共感や新たな気づきがあったという反応も多くありました。また、自分の考えをアウトプットすることで自信につながり、満足度が高まることもわかったため、人権学習やSDGsに関わる問題等にテーマを広げ、ゲストティーチャーや専門家とつながる機会も増やしたいと考えています。」(倉吉市立小鴨小学校 教諭 磯尾和彦氏)

全員を巻き込むためにも、高スペックな機器が重要

ゲストティーチャーから学ぶ機会としては、西部地区の大山町立名和中学校も実践している。1年生の理科の授業で京都市動物園の獣医師とオンラインでつながり、草食動物と肉食動物の違いを学ぶ授業を実施。この取組はメディアでも取り上げられた。教員のオンライン研修を含め、こうした取組が広がっているのは、端末だけでなくオンラインで授業や研修が手軽にできる環境が整っているのが大きいようだ。

「ダイワボウ情報システムさんの『おてがる遠隔授業パック』のモニターに応募し、採用されたことで、まさに手軽にオンライン授業や研修ができるようになりました。PCやカメラ、Wi-Fiといった配信に必要な高品位な環境がパッケージとなっていて、高スペックの機材をストレスなく使えます。ICTに不慣れな先生もいると思うのですが、操作面で大きく戸惑っている様子はありません。県内の先生方は、どの先生も前向きに頑張っておられます。」(前出・吉田氏)

インテルの協力で、オンライン会議システムを利用した実証実験も行った。機材はダイワボウ情報システムの機材を活用。簡単にセットして、教員や保護者向けのオンライン研修を実施することができたという。

もともとICTになじみが深い教員もいれば、そうでない教員もいる。授業づくりに長けていても、ICTでの活用に反映できるとは限らないため、ベストミックスで取り組めるように県教委としても配慮しているという。「ICT活用が進んでいる学校は、核となる先生が適切な情報を収集して校内に共有し、どう具体的に展開するかといった話合いが自然に生まれている」と吉田氏は言うが、だからこそ、絶え間ない情報発信を行い、ストレスのないICT環境を整えることが肝要ではないだろうか。

「今後は、例えば動画の編集も学びの場で行うことになるかもしれません。学びを止めないためにも、端末をはじめとするICT環境をより高スペックにしていく必要も出てくると思います。同時に、端末を使うこと自体が目的ではなく、児童・生徒の学びを深めるための道具として効果的に活用するという視点も重要です。まだ手探りの段階ですが、民間企業のお力も借りながら、経験値を高めて最適なICT活用法を見つけていきたいと思います。」(吉田氏)

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