企業買収は信長流ではなく相手を尊重する秀吉流で−−近藤史朗・リコー社長

企業買収は信長流ではなく相手を尊重する秀吉流で−−近藤史朗・リコー社長

日欧米ではすっかり成熟市場となった事務機業界。成長が鈍化する中、北米では昨年から、事務機メーカーによる代理店買収が相次いだ。8月末、世界最大販社の買収により、この競争に終止符を打ったのはリコー。桜井正光前社長(現会長)時代から積極的なM&A戦略を進め、安定成長を続けてきた。一方で、苦手とする北米地域は赤字すれすれの“低空飛行”から依然抜け出せない。世界経済の停滞で市場環境は厳しさが増す。就任から1年半経った近藤史朗社長の目に、リコーの進むべき道はどう映っているのか。

--米国をはじめ世界的な景気減速が進んでいます。事務機業界でもかなり影響が出ていますか。

それはもう避けられないですね。たとえば、ワシントン・ミューチュアルという、この前倒れた会社がありますが、あそこはうちの米国の大きなお客様です。会社自体がなくなるわけではないので、契約は継続できるとは思いますが、いずれにせよ大変残念な状況ですね。将来の設備投資にしても、少しブレーキをかけざるをえない状況です。

--社長就任から1年半が経ちました。技術者出身の近藤社長としては、経営上のテーマはやはり技術力の改善になりますか。

いちばん大事なのは、お客様に対してどういう顧客価値を提供できるかということです。技術というのは、その手段にすぎません。

うちの会社には絶対自分のところで作らないといけない、そうでないものは売ってはいけないという思い込みがあります。昔、水平分業モデルの電卓事業で大損を出したことがあって、それがトラウマになっているのです。

だから、ネットリコーという、事務用品のネット販売会社があって、リコー製のプリンタとか消耗品のほか、他社の文房具、オフィス用品なども売っていますが、「そんなものを扱ったら大損するよ」という声が社内でいまだにある。

しかし、顧客視点でお客様の価値になるものは何でもリコーの商売にするというぐらいの強さがないとダメです。お客様に対してどういうサービスが提供できるかがいちばん大きいと社員に何度も言っているのだが、作ることが目的であったりします。そこは直さないとダメですね。

--この10年、海外でのM&Aを積極的に行い、事業規模を拡大してきました。一方で、赤字の北米地域については、買収会社の統合に時間がかかりすぎているのでは。

われわれは強引に合併するという手法を選んでいない。なぜそうしないかというと、たとえば(昨年商業用プリンタ事業を買収した)IBMの場合、まったく違うカルチャーの会社が一緒になるわけです。両社が今まで形成してきた価値が違う。ですから、昨年6月に両社でジョイントベンチャーを立ち上げ、3年かけてリコーの完全子会社としていく形をとりました。

外から見ると、何でこんな面倒くさいことをしているのかと思うでしょう。でも、彼らの伝票用の連続帳票の印刷機という事業だけでは、ちっとも面白くない。膨大な顧客データから捜している1人の情報を抽出するソフトウエアのノウハウをIBMは持っていて、リコーとしてはこれをきちっと学びたい。

そして、今最も力を入れているオンデマンド・プリント事業などに生かしていきたいわけです。そのためにはゆっくり時間をかける必要があるわけです。 

--8月末には約1700億円を投じ、世界最大の事務機販売会社アイコン社買収を発表しました。今回も同様の手法で進めますか。

基本的に、彼らのパフォーマンスを落とすようなやり方はしないつもりです。今、あの会社の全売り上げの中で、リコーの事務機の占める割合は30%しかないわけです。残り70%は他社の事務機ですから、その他社分を奪われないように守りながら、リコーの事務機に切り替える作業が買収後残っています。ただ、それを顧客の下にわっとリコーの人間が行って、「御社が今使っている事務機を、明日からリコー製に替えます」といって、強引に切り替えることはできません。

だから、「信長みたいなことはしません」と言っています。信長は延暦寺で皆殺しをやったじゃないですか。だけど、秀吉は、逃げ道をきちっと相手に伝えて、城攻めをするときに、そこからみんな逃げてくださいと言って逃がす。

最上の方法は、(買収先の社員、顧客を)丸々自分の味方にするのが、いちばんロスが少ないわけで、そういう進め方をすべきだと思っています。具体的には、主たる幹部の90%以上は留任させる方針です。実はこれにも賛否両論あるのですが、そこは彼らの期待値を買っているところもあります。

今、アイコン社は5%弱の営業利益率です。販売代理店なので、メーカーと利益をシェアしているわけです。今後リコーの傘下に入り、シェアする必要がなくなったら、利益率は上げられると見ています。
 

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