日本が世界一の「研究捏造大国」になった根因 「カネ取れなければダメ」が不正生み出す

✎ 1〜 ✎ 144 ✎ 145 ✎ 146 ✎ 最新
拡大
縮小
STAP細胞は組織ぐるみの不正にはなりえない性格の研究だった(撮影:ヒラオカスタジオ)
輝かしいノーベル賞受賞の一方で、科学者たちは時として「研究不正という暗い影を生み落としている」という。『研究不正 科学者の捏造(ねつぞう)、改竄(かいざん)、盗用』を書いた東京大学の黒木登志夫・名誉教授に、詳細を聞いた。

研究機関が競争社会に入ったという背景も…

──日本人が研究不正で「世界トップ」なのですか。

2014年まで11年間の撤回論文数のワーストワンは日本人、ワースト10に2人、30位内に5人も名を連ねている。撤回数を国別に見ると、いちばん多いのから順にインド、イラン、韓国、それから中国、日本、米国と続く。日本は捏造が多く、ほかの国は盗用が多い。また3分の1は間違いが理由。それも不名誉なことには違いない。

研究不正は2000年まで日本では目立つものはなかった。2000年に麻酔科医が摘発されて以降、次から次へと出てきている。撤回論文を俎上に載せたブログ「リトラクションウオッチ」によると、この麻酔科医の撤回した論文は20年間分で183を数え、世界一。ものすごい「才能」だ。何しろ英文で論文を仕上げ、一流ジャーナルの審査にパスする。しかも掲載されるにはその時々に何が問題テーマか理解していなければならない。実は世界にはそれができる人物はいっぱいいる。

──この本では42例が特筆されています。

データの改ざん、成果の捏造、盗用など、欧米や日本、中国、韓国などを揺るがした重大不正事例を抜き出した。

──なぜ日本で今世紀に入る前後から多くなったのですか。

大学、研究機関が経済的に苦しくなって、自らおカネを取ってこなければ研究ができない。任期が不安定化し、腰を落ち着けることも簡単にはできない。そういう研究の競争社会入りがバックにある。

この本に現れた不正は氷山の一角で、東芝の会計不正、フォルクスワーゲンや三菱自動車はじめ、企業にも社会一般にも不正はたくさん見られる。企業の場合は縦社会だから組織ぐるみになってしまう。大学や研究者は縛りが緩やかだから、むしろ一人ひとりが勝手にやっているところがある。

次ページ社会的関心を引きすぎたSTAP細胞
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT