【産業天気図・医薬品】新薬メーカーは「2010年問題」で暗雲たちこめ、後発薬メーカーは淘汰進む

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  09年4月~9月   09年10月~10年3月

降り続く雨は当分、止みそうにもない。主力品の特許が相次いで切れる「2010年問題」加え、FDA(米国食品医薬品局)の審査厳格化による承認遅延--。国内製薬企業は、ドラスティックな決断を迫られている。足元は順調だが、FDA(米国食品医薬品局)の審査が厳格化するなど、新薬の開発は格段に難しくなっている。数年先を見越した成長持続のためには、思い切った先行投資が必要になり、大手4社でさえ、一時的な利益悪化に陥る可能性もある。

アステラス製薬<4503>は昨年4月、主力の免疫抑制薬「プログラフ」の特許切れた。危機的状況を乗り切ろうと2月末、米バイオベンチャー、CVセラピューティクス社への敵対的TOBに踏み切ったが、同業の友好的買収者出現で断念。売れ行きのいい狭心症薬を米国での即戦力にしようというもくろみは頓挫した。とはいえ、特許切れ薬の穴埋めは急務だ。近々にも、成長中の新薬を持つ企業に、新たな提案を示す可能性もあるだろう。

昨年4月に米ミレニアム社を、約8800億円と“破格”で買収した武田薬品工業<4502>は、ガン領域に大きく舵を切った。主力の潰瘍薬「プレバシド」は今年、糖尿病薬「アクトス」は11年夏に特許切れ寸前。ところが、アクトスの後継品として申請していた薬候補は、FDAから安全性の課題を指摘され、申請一時取り下げの可能性も出ているなど先行きは厳しい。エーザイ<4523>もMGI社(米国の抗ガン剤開発ベンチャー)買収でガン領域に乗り出している。現状は認知症薬と潰瘍薬の2品目に頼る売り上げ構成だが、新たな収益源としてガン領域を有望視。同領域は画期的治療薬が切望されている分野であり、成功すればリターンは大きいがリスクも高い。パイプラインに進展が出るまでは我慢が必要となる。

新薬偏重ではなく、後発薬にも触手を伸ばした第一三共<4568>。欧州で承認取得したばかりの抗血小板薬「プラスグレル」など新薬にも力をいれる一方、昨年買収したインドのランバクシー社を通じ、後発薬事業にも注力する。ただ、ランバクシーはFDAからインドの工場について安全性の問題を指摘されており、幸先順調とはいえない。09年度はランバクシー問題の動向次第では赤字に陥る可能性もある。
 
 一方、厚生労働省の推進策もあり、国内後発薬市場は大きく伸びそう。これに伴って、競争激化も必至だ。昨夏、大型製品である降圧薬のジェネリック解禁時には十数社が参入した際、上位を占めたの後発薬専業メーカーではなく、新薬メーカーのジェネリックだった。今後一段と競争が激しくなるなかで、後発薬専業メーカーが淘汰されていくのは間違いない。さらに、ここへきて海外企業も日本市場に注目している。後発薬最大手、イスラエルのテバ社が興和株式会社と合弁会社設立を決めたように、ここ数年で、海外企業の進出がさらに進む可能性もあり、後発薬メーカーにとっては厳しい状況が続きそうだ。

市場の大きな変化を前に、再編も加速しそうだ。生き残りには、新薬メーカーも後発薬メーカーも、思い切った先行投資に賭けるしかない。まだまだ雨は降り止みそうにない。

(前野 裕香)

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