北朝鮮は「水爆実験成功」で何を伝えたいのか 緩やかな成長が続く経済に冷水浴びせる行動

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北朝鮮は、国家の統一的指導の下で、社会主義経済の前提を堅持しながらも、工場や企業所など経済活動の現場に権限を与え、相対的に自由な経済活動を許してきた。同時に、貿易全体の9割を中国が占めるなど、中国一辺倒の状態が続いてきた。

そのため、今回の実験において「北朝鮮が言うところの民族経済の本筋に戻るという意味があるのかもしれない」と、北朝鮮経済に詳しい環日本海経済研究所(新潟市)主任研究員の三村光弘氏は指摘する。それは、中国との関係を悪化させても、北朝鮮が言う「輸入病」から脱却し「主体」(チュチェ)経済という名の自立経済をより強化するための信号弾ではないか、という見方だ。

北朝鮮の外部から見ると、金正恩政権が続けてきた経済政策は一時的に後退する可能性がある。ただ、経済成長の成果を受けるのは大都市住民だけという見方もあるが、それでもかなりの国民が経済成長の成果を享受してきており、いったん果実を味わった国民にとって、経済活動の後退には不満が高まる可能性がある。

金正恩政権にとっても、1990年代後半の「苦難の行軍」と呼ばれた深刻な経済難・食糧難の再来は防ぎたいはずだ。そのため、食糧供給の基本となる農業分野では、仮に経済を引き締めると言ってもそれほどの厳しさはなされないだろう。ただ、「農業生産に必要な肥料の調達が厳しくなるかもしれない。中国との関係が悪化すれば、さらに厳しくなるだろう」(三村氏)。

実験は対外経済開放の道を閉ざす

また、2013年に法整備を終えて実施され、北朝鮮国内27カ所が指定されている経済開発区のプランも支障を来す可能性がある。経済開発区を管理する北朝鮮・対外経済省関係者は、2015年9月に平壌で行った東洋経済とのインタビューで、「インフラ建設の資金が不足している中で、資金を外国企業が参加することで開発したい」と述べたことがある。

この関係者はまた、2015年9月時点で「1カ所で中国企業主導による経済開発区内のインフラ整備が実施中であり、それ以外に3カ所の経済開発区でインフラ整備のための外国企業の選定作業に入っている」と明らかにした。これら外国企業のほとんどは中国企業であり、これまで核実験に強く反対してきた中国は、自国企業が北朝鮮で行う経済活動には、より厳しい姿勢で規制することになるだろう。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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