増加する「爆買いしない」中国人たちの本音 彼らは何を思い、どこへ向かうのか?

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一方、「学習」や「体験」を求めて日本にやってくる富裕層も増えている。

取材の過程で知り合った林翔さん(35歳)は、京都の伝統的な町屋で暮らしている男性だ。以前は沖縄に住んでいたが、京都の奥深い文化にあこがれ、町屋を探して住み始めた。中国人富裕層たちから依頼された旅行手配などを行う仕事をしている。

日本人もびっくり、洗練された旅行コース

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林さんが企画するツアーに参加するのは上海から程近い杭州に住む30~40代の会社経営者や銀行員、大手企業に勤務する富裕層。彼らが興味を持っているのは、免税店を巡る買い物や、東京―大阪間のゴールデンルートを歩くバスツアーなどではなく、日本の建築やデザイン、農業、芸術、ホテル経営、日本人のライフスタイルなどを見聞することだ。

中国よりも進んでいる日本の最先端の技術や、日本人の精神性などを学びたいと思っており、日本の文化に詳しい林さんに「どこに行ったらそれを知ることができるか」相談してくるという。

「1回のツアーは少人数に限定しています。滞在日数は1週間から10日とゆったりしていて、彼らと相談しながらオリジナルのコースを組んでいきます。分刻みの慌ただしい旅行はしません。

たとえば、これまでに北海道の食材を存分に使った美瑛のオーベルジュや、里山の自然が美しい新潟のホテル、東京・新潮社の倉庫跡を改造したキュレーションスペース、個性的な美術館や博物館などに案内しました。単にそこを見るだけでなく、じっくりお話を聞いたり、建築や展示の方法などを研究することも目的のひとつです。いずれも一人では行きにくい場所で、中国ではまだ情報が出回っていないところ。言語の問題もありますので、とても喜ばれています」(林さん)

また、「地元の人とふれあいたい」「日本ならではの体験がしたい」という声も多く、それに応えて、日本全国各地に案内している。たとえば、福岡県の城下町で陶芸体験をしたり、田舎の小さな喫茶店のマスターらと語り合ったり、町のおまつりに参加したり、日本料理を習ったりすることなどだ。

「最先端を行く富裕層の中国人はもう物質は何でも持っています。モノを手に入れることで得る満足ではなく、独創性のあるお話に耳を傾けたり、そこでしかできない“経験”を欲しているのです。日本のことはまだあまりわからないので、日本人が何を考え、どうやってその作品を生み出すことができたのかなど、現在に至る過程や考え方を知ることが目的。そこでインスピレーションを得て、中国に持ち帰って、自分たちの仕事に生かしたいと思っています」(林さん)

モノではなく、日本人とのふれあいや日本ならではの体験で触発されたい――。「爆買い」という祭りのあと、早くもこの領域に達した人々がいる。この傾向は富裕層だけの現象にとどまるのか、それともいま「爆買い」している中国人にも及ぶのか。 少なくとも中国人たちが日本を見る目は、われわれ日本人が想像するよりもずっと速いスピードで、大きく変わりつつあるのだ。

中島 恵 ジャーナリスト

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なかじま けい / Kei Nakajima

山梨県生まれ。北京大学、香港中文大学に留学。新聞記者を経て、フリ―に。著書に『なぜ中国人は財布を持たないのか』『中国人エリートは日本人をこう見る』『中国人の誤解 日本人の誤解』(すべて日本経済新聞出版社)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?』『中国人エリートは日本をめざす』(ともに中央公論新社)、『「爆買い後」、彼らはどこに向かうのか?』(プレジデント社)などがある。

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