米中経済戦争、これから何が起きるのか 経済覇権をめぐる"AIIB対TPP"の行方

拡大
縮小

米中はいま、経済力だけでなく軍事力まで動員してその争奪戦をしているのだ。中国が仕掛けるAIIBと、米国主導のTPPがその象徴である。

AIIBとTPP はまったく別分野のものである。前者はアジアの新興国がインフラを建設する際の資金を融資するための金融機関だ。後者は日米を中心に太平洋を取り巻く12カ国が参加した自由貿易協定である。

目的も違えばあり方も違うが、その背景には先進国が主導してきた既存の国際秩序を新興国が変えようとする動きと、それに抵抗する先進国のせめぎあいがある。中国がAIIBを設立した理由のひとつに、2010年に中国のIMFでの出資比率向上が合意されたにもかかわらず、米国議会の反対で実現しなかったという事情がある。

TPPは、アジア太平洋において自由化度の高い貿易圏を作ろうという試みだ。単純化すれば、参加国は米国のスタンダードに合わせて自国の市場を開放することを求められる。

TPPはやっかいな存在

中国にとって、世界のGDPの4割を占める巨大な経済圏であるTPPはきわめてやっかいな存在だ。そこから排除されることは避けたいが、参加するためには知的財産権の保護や国有企業の特権廃止など米国が設けた高いハードルを越えなければならない。

米国、また日本にとってTPPの裏テーマは中国市場の開放だ。中国のビジネスは規模こそ巨大でも儲からないことが多い。政府が自国企業に有利な仕組みをつくっているからだが、TPPに中国を取り込むことでルールを変えさせれば外資のビジネスチャンスは大きく広がる。

TPPによる包囲圧力を警戒した中国が、対抗策として打ち出したのが「一帯一路」構想だ。「一帯」は中国から欧州まで陸上でユーラシアを横断する「シルクロード経済帯」。「一路」は中国から南シナ海、インド洋などを抜けて地中海にいたる「21世紀海上シルクロード」をさす。AIIBはこれらの地域でのインフラ建設を金融面で支えるもので、いってみればパーツのひとつにすぎない。

次ページ中国が一帯一路を進める理由
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT