「牛丼がTPPで激安になる」という噂のウソ 関税見直しで、日本の食は激変するのか
「牛丼一杯が110円になる」――。
今年10月に参加12カ国で大筋合意したTPP(環太平洋経済連携協定)が今後もたらすと予測される変化について、早くもこんなうわさがネット上で飛び交っている。いったい本当にありえるのか。各方面を取材してみた。
今回のTPP合意内容によると、牛肉は現行38.5%の関税が、発効後16年目以降には9%まで引き下がる。主に北米から牛肉を輸入している各社にとって、関税は調達コストの一つ。それが30%近く下がるのだとしたら、その影響は大きそうにみえる。
関税引き下げだけで値下げできない
しかし、すき家本部の興津龍太郎社長はこう話す。「人件費など諸コストが上昇トレンドにあるなか、TPPだけで値下げをするのは現実的ではない」。吉野家の河村泰貴社長も、呼応する。「輸入牛肉は現地相場や為替動向などさまざまな要因で決まるため、関税の引き下げだけで値下げをすぐに決断するのは難しい」。
牛丼各社の答えは「難しい」。その真意を図る上でもTPPの効果を計算してみよう。
牛丼チェーン各社が使用する牛肉は、主に北米産のショートプレート(牛バラ肉)である。現在の価格は1キログラム当たり約600円。これがTPP発効後16年目以降になると関税が29.5%下がるため、1キログラム当たり471円と、129円下落する見込みとなる。
牛丼チェーンによって異なるが、牛丼並盛1杯に入っている牛肉の量はおおむね100グラム前後が主流。そこからTPPの影響を推計すると、関税引き下げによって牛丼並盛1杯の牛肉調達コストは12.9円下がることになる。つまりせいぜい10~20円程度の値下げ余地しか発生しないことになる。
そうであるならば1年で3~4割の乱高下がしばしば起こる牛肉相場や、為替レートの変動のほうが影響は大きくなると考えるのは自然な話。多忙なサラリーマンの胃袋を満たす “サラメシ”の代表選手、牛丼がTPPによる値下げの恩恵に浴するのは難しそうだ。
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