日本人が知らないアメリカ的政治思想の正体 自由至上主義の源流に「アイン・ランド」あり

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サンテリは同じ質問をロン・ポールの息子で、米国リバタリアンのファーストファミリーの二代目であるランド・ポールに投げかけた。ポールは上院で廃案となった父親のFRB監査法案を引き継ぎ、クルーズとともに今年再提出している。

彼は、FRBの介入が格差の拡大を助長したばかりでなく、金融危機を招いたと主張した。利率はお金の価格であり、中央銀行は価格操作を行うべきではないというのだ。これはトランプの、為替介入が政府の唯一最強の武器だというアベノミクスにも似た立場とは大きく異なるものだった。

米国における「古き良き保守」はクルーズのように内国歳入庁(IRS)の廃止を訴えたりはしない。伝統的な保守はおもにキリスト教の価値を重んじる文化的保守だ。共和党は、小さな政府志向、財政規律重視という共通点だけでゆるくつながっている雑多な大所帯となりつつあり、その対立は大きくなかった。

しかし2010年の中間選挙において状況は変わった。共和党右派である「ティーパーティ(茶会)」系の議員が大躍進し、共和党は茶会系の支持者をとりこむのでなければ、選挙に勝つことが難しくなったのだ。そして2012年の予備選挙でミット・ロムニーが指名を獲得したとき、副大統領候補に指名されたのが、より過激に福祉の縮小と財政規律を求めるポール・ライアンだったのである。

米国政治文化の源流にあるもの

いったいなぜここへきて、格差の広がる米国で、過激な自由主義者たちの存在感が高まり続け、格差の拡大によって不利益を被るはずの中間層の普通の人々にまで支持されているのだろうか。1980年代のレーガン革命に飽き足らず、中央銀行の量的緩和を制限し、医療保険までも民営化しようとする茶会・リバタリアンたちが増えているのはなぜだろうか。

米国アインランド協会のイベントでヨーロッパの会員と交流する筆者

この米国政治文化の源流に、ロシア出身のアイン・ランドという思想家が存在する。ランドはクルーズが愛読し、議事妨害の演説の最中に引用した小説『肩をすくめるアトラス』を書いた米国の作家である。米国で本を読む人ならわりと誰でも知っている20世紀の作家だ。

茶会運動の仕掛け人とも言われている前述のCNBCのレポーター、リック・サンテリも自称アイン・ランド主義者である。ポール・ライアンも『肩をすくめるアトラス』を読んで政治家を志した。米国にはアイン・ランド協会という組織もあり、アイン・ランドについて活発な研究を行っている。

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