「仲良しだけどセックスレス」夫婦に迫る危機 「女が終わる」と焦る妻
その時、決めた。50歳になっても状況が変わらなければ離婚しよう。幸いなことに、経済的に自立している。子どもも成人する。夫婦という「基盤」がなくなれば男と女になれるかもしれない。なれなくても、この苦しさからは逃れられるだろう。
リミットまであと1年。最近、美佳さんは気になる人ができた。
「“ずっとしてないけどできるかな”と、付き合ってもいないのに考えてしまう。もう夫のことは同居人としか見ていません」
東邦大学医療センター大森病院女性性機能外来の田中祝江(のりえ)医師は、「要は、コミュニケーション不全の結果」と話す。セックスはコミュニケーションの最たるもの。2人が満足する方向にいっていなければ、問題はセックスだけにとどまらず、夫婦のあり方すべてに及ぶ。
声高な夫、我慢する妻
55歳の夫が、53歳の妻を伴って田中医師の外来を訪れた。「これまでは妻も一緒にセックスを楽しんできたのに、最近嫌がるようになった。妻の認知症が心配だ」
田中医師が妻に視線を向けると、「子どもも成人したことですし、そろそろなくてもいいかな、と思うんです」と言葉少なに答えた。夫は嘆いた後、「妻とはこうあるべき」と主張するばかりだった。
2回目の受診時、妻は一人で訪れた。
「もともとセックスが好きじゃない。いやいや応じてきたけど、もう解放してほしい。手をつないだり、旅行をしたりするくらいなら大丈夫なので、それで勘弁してほしい」
その後、田中医師とともに夫婦の話し合いが何度か設けられたが、夫は一切耳を傾けず、最後は「この医者はわかっていない」と切れた。妻も、「自暴自棄になると困るので、私が我慢します」と診察に来なくなった。田中医師のもとを訪れる夫婦は多くの場合、一方が欲求や不満をぶちまけ、一方は黙ったまま。たいてい、黙ったままなのは妻だ。