「相続増税」がやってくる! もう庶民も他人事ではない

拡大
縮小

 もっとも大きいのが、(1)の基礎控除(非課税枠)の縮小だ。

仮に今日、親が死亡し、相続発生となったら、基礎控除の金額は、「5000万円+(1000万円×法定相続人数)」である。これが改正された後では、「3000万円+(600万円×法定相続人数)」まで、大きく減らされる。

例を挙げよう。相続財産は預貯金と自宅の計5000万円で、被相続人を父、相続人を母・兄・弟の3人とする。現行では、5000万円+(1000万円×3人)=8000万円までが基礎控除となり、税金はかからない。つまり遺産が5000万円であれば、十分に非課税の枠に収まる。  

しかし15年1月1日からは異なる。改正後は、非課税枠が3000万円+(600万円×3人)=4800万円まで減額される。同じ遺産5000万円でも、課税範囲に入ってしまうのだ。

実際に納付する税額は、相続財産5000万円−基礎控除4800万円=200万円から、配偶者特例による非課税枠(100万円)を差し引いた100万円に、税率10%をかけた計10万円になる(母はゼロ・兄5万円・弟5万円)。

「兄弟でたった10万円」と言われそうだが、ゼロから課税対象になる意味は、決して小さくない。

税率もアップする

また税率の引き上げも見逃せない。改正されれば、相続税の税率の刻みは、6段階から8段階へと細分化。最高税率(6億円超)は50%から55%に引き上げられる。前述のように、相続財産5000万円だったら、ゼロ→10万円の税負担で済むが、これが相続財産10億円の場合、相続税は、現行の1億6550万円から、改正後は1億7810万円へ、何と1260万円もアップする。

さらに死亡保険金の非課税対象も、従来は、「非課税金額500万円×法定相続人数」だったが、改正されたら、今度は対象が、相続人のうち、「被相続人(父)と生計を一にしていた者」に限られる。つまり“親と同居”が非課税の条件だ。親が70~80代で亡くなる頃、40~50代の子が自分の持ち家に住み、親と別居していたら、もう認められなくなるのだ。

ちなみに贈与税も最高税率は50%から55%にアップする。相続税の負担軽減を狙い、よく生前贈与の存在が言われるが、同じ贈与でも、毎年コツコツ贈る「暦年課税制度」と、一括で多額を贈る「相続時精算課税制度」がある。どちらがどう得なのかは、相続する金額、財産の種類、相続人(親)の健康状態など、各人のケースによって異なる。

ちなみに相続税の課税割合(課税件数/死亡者数)は、全国平均で現在4%。ある税理士法人の試算によれば、15年に相続増税が実施された場合、東京都では、この数値が24%まで高まるという。ざっと4人に1人の割合だ。もはや相続対策はカネ持ちだけの話ではない。

6月25日(月)発売の週刊東洋経済『あなたを襲う相続税』では、相続税の仕組みから、生前贈与の仕方、不動産や保険を使った節税テクニック、親族とのトラブルQ&Aまで、様々なテーマを取り上げた。ぜひ参照してほしい。

(撮影:尾形 文繁)

大野 和幸 東洋経済 記者

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おおの かずゆき / Kazuyuki Ohno

ITや金融、自動車、エネルギーなどの業界を担当し、関連記事を執筆。相続や年金、介護など高齢化社会に関するテーマでも、広く編集を手掛ける。

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