成城石井は、なぜ「安くない」のに売れるのか こだわっているのは、たった一つの本質だ

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店員が商品を他の店に運ぶなど、手間もかかり、移動には費用も発生する。儲けを考えると、とても非効率的な行為だが、あくまでお客が求めていることを成城石井は大事にしている。ある商品が欠品しても売り上げは下がらないかもしれないが、「あの店に行けばいつも買える」という安心感や信頼関係をお客との間で築くことのほうが、儲けよりも重要という視点である。

そこまでの徹底した顧客優先の姿勢が、やはり顧客には伝わっている。昨今の成城石井の快進撃が、それを裏付けている。そもそも成城石井が貿易会社を設立してワインやチーズの直輸入を始めたのも、儲けようと思ったからではない。顧客の求めるものを手頃な価格で提供したい、本当においしいもの、こだわったものをとことん突き詰めよう、というところからスタートした。

最初から品揃えを多くしようとしたのではない。結果として、他社が真似できない仕組みや品揃えにつながった。

成城石井の原昭彦社長は「消費の2極化が起きている」と語っている。とにかく安い、を求める消費と、価格は安くなくともこだわった商品、安全・安心な商品、ちょっといい商品が欲しい、という消費だ。

成城石井は、日本全国のスーパーマーケットと提携し、成城石井のオリジナル商品や直輸入している輸入商材などの商品を各地方スーパー内で販売する「成城石井専門コーナー」を展開している。価格はそのスーパーで売られている商品価格の2〜3割程度高いが、多くのスーパーで人気を博しており、商品価値やこだわりが評価を集め、売り上げが当初予測の1.5倍、リピート率が40%近くに及んでいる店もある。

「高いから売れない」は思い込みにすぎない

「高いから売れない」は勝手な思い込みにすぎない。また、高いものを買うのは収入の多い人たちかというと、決してそのようなこともない。成城石井は「ターゲットゾーン」を明確に定めてはいない。そもそも、おいしいものを食べたいという気持ちは男性にも女性にもある。そこには年齢も収入も関係ない。

実際、決してそこまで年収が多いとは思えない若い女性も、成城石井で自分へのご褒美として少々高額なシャンパンやワイン、チーズや生ハムを買っていくことは珍しくないという。

成城石井は「マーケティング」という言葉を好まない。もしマーケティング、ターゲットゾーンといったことを考えていたら、若い女性のシャンパン需要を逃してしまっていただろう。成城石井がこだわっているのは、たった一つ。それは「お客の期待にどう応えていくか」。「ビジネス」「商売」における本質である。

上阪 徹 ブックライター

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うえさか とおる / Toru Uesaka

ブックライター。1966年、兵庫県生まれ。早稲田大学商学部卒業。ワールド、リクルート・グループなどを経て、1994年、フリーランスとして独立。経営、金融、ベンチャー、就職などをテーマに、雑誌や書籍、Webメディアなどで幅広くインタビューや執筆を手がける。これまでの取材人数は3000人を超える。他の著者の本を取材して書き上げるブックライター作品は100冊以上。2014年より「上阪徹のブックライター塾」を開講している。著書は、『1分で心が震えるプロの言葉100』(東洋経済新報社)、『子どもが面白がる学校を創る』(日経BP)、『成城石井 世界の果てまで、買い付けに。』(自由国民社)など多数。

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