イノベーションの理由 資源動員の創造的正当化 武石 彰、青島矢一、軽部 大著 ~不確実性に満ちた企てをどう正当化するか

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ただ、順風満帆な事例も「死の谷」を越えた事例も、そこから抽出されるのは、イノベーションは「多くの人びとが合意できるような成功の見通しによって、整然とすすむものではない」ということである。それは「不確実性に満ちた企て」であり、「その前進を駆動」するのは「イノベーションを目指す推進者や資源の動員に関わる特定の主体に固有の主観的・局所的な理由」である、と本書は語る。つまり「イノベーションの理由」の根幹には、推進者による「資源動員を創造的に正当化」するプロセスがある、と指摘する。そうした本書の追跡調査の内容はどちらかというとアナログでありローカルな場での努力の日々である。

著者たちは、グローバリゼーションが「イノベーションの実現に必要な、固有の価値、価値の多様化、資源や権力の偏在性を減少させるがゆえ」に難しい状況にたち至っていると最後に指摘する。

国からの研究資金の提供である「COEプログラム」による、地道で貴重な労作である。

たけいし・あきら
京都大学大学院経済学研究科教授。1958年生まれ。東京大学教養学部教養学科国際関係論卒業。三菱総合研究所入社。マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院でPh.D.取得。一橋大学助教授、教授を経る。

あおしま・やいち
一橋大学イノベーション研究センター教授。1965年生まれ。一橋大学商学部卒業。マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院でPh.D.取得。一橋大学イノベーション研究センターの専任講師、助教授、准教授を経る。

かるべ・まさる
一橋大学イノベーション研究センター准教授。1969年生まれ。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了。東京経済大学専任講師、 米ブリンマーカレッジ、ペンシルベニア大学客員研究員など経る。

有斐閣 3990円 506ページ

  

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