暴落しない国債、不必要な増税 「借金1000兆円」に騙されるな! 高橋洋一著 ~「安全資産」日本国債に興味深い議論を提起

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暴落しない国債、不必要な増税 「借金1000兆円」に騙されるな! 高橋洋一著 ~「安全資産」日本国債に興味深い議論を提起

評者 中里 透 上智大学経済学部准教授

 最近、メディアで「国債暴落」に関する話題がしばしばとりあげられる。だが、債券市場に目を転じると、長期金利(10年物国債利回り)は1%近辺の水準で安定的に推移しており、海外の投資家からも「安全資産」として日本国債が買われている。この両者のギャップはどのように考えたらよいのだろうか。この点について著者は、通常の見方とはやや異なる視点から興味深い議論を展開している。

本書のタイトルにあるように、現時点における国の借金(国債・借入金・政府短期証券の現在高)は1000兆円近い水準にある。だが、この中には独立行政法人などに対する貸付(財政投融資)の原資を確保するために発行される国債(財投債)も含まれており、政府は外貨準備(主に米国債)をはじめとする金融資産も保有している。したがって、「1000兆円」という数字については注意して見る必要があるという点は、著者の言うとおりだ。

もっとも、基礎的財政収支が大幅な赤字になっている現状では、政府債務残高をネットとグロスのいずれで見るかにかかわらず、財政収支の均衡化が必要になる。この点についての著者の提案は、大胆な金融緩和によるリフレ(物価上昇)政策によって経済成長を促し、税収の自然増を図るというものだ。

この提案のうち、デフレ脱却と経済成長の促進が重要な政策課題であるという点は強く支持される。だが、インフレは貨幣の購買力を低下させるという意味では課税の一種であり、財源確保のための手段として見た場合に、消費税の増税とインフレ税による増収策のいずれのほうが経済に対する撹乱効果が小さいかは、データに基づく分析と冷静な判断が必要になる。この点についても著者の見解を聞いてみたい気がする。

たかはし・よういち
嘉悦大学教授、政策工房会長。1955年生まれ。東京大学理学部数学科、経済学部経済学科を卒業。大蔵省入省。理財局資金企画室長、プリンストン大学客員研究員、総務相補佐官、内閣参事官などを歴任。著書に『さらば財務省!』など。

小学館101新書 735円 190ページ

  

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