自動車メーカー絶好調でも、株価が反応しない理由

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1つは、やはり「円高」だろう。今期各社のドルの前提レートは、1ドル=80円が最頻値だが、足元は79円と、既に80円割れしている。トヨタの場合、対ドルで1円円高になると、年間で350億円近い営業減益の要因になる。3円も円高になれば、1000億円の利益が吹っ飛ぶ。また欧州債務危機の再燃で、ユーロ安(円高)も進み、現状では103円までに至った。ちなみにスズキは今期、1ドル=75円と固めに見積もったためか、営業益はほぼ横ばい見込みと、最も保守的である。

もう1つは、国内のエコカー補助金終了に伴う「反動減」だ。トヨタの小型ハイブリッド車「アクア」は、今注文しても、納車は10月以降。11年12月から復活したエコカー補助金は、普通車なら10万円、軽自動車なら7万円が支給される。ただ、政府予算は約3000億円で、この枠が消化されれば支給は打ち切られる。補助金の申請ペースを追うと、業界では「夏前にも予算が切れる」との見方が濃厚という。需要を“先食い”してきた反動の悲惨さは、薄型テレビの例を見るまでもない。

さらにはもう1つ。「震災後の正常化」だ。東日本大震災後のサプライチェーン(供給網)崩壊が復旧し、自動車生産回復が本格化したのは、前下期から。つまり、増益ペースは今上期がピークで、下期からは明らかにペースが鈍る。

これら3つの要素を見ていくと、特殊要因を抱える日本の自動車メーカーにとっては、必ずしも今期がバラ色一辺倒ではないのがわかる。いくら新興国市場のパイが伸びても、それをつかむのが、独フォルクスワーゲンや韓国現代自動車、復活した米ビッグ3であれば、日本勢まで恩恵は行き渡らない。

リーマンショックや大震災、超円高と、ここ数年の最悪期からのV字回復は、当たり前。日本メーカーにとって、本当の意味で真の実力が問われるのは、むしろこれからだ。

(写真:5月9日、決算を発表するトヨタ自動車の豊田章男社長)

大野 和幸 東洋経済 記者

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おおの かずゆき / Kazuyuki Ohno

ITや金融、自動車、エネルギーなどの業界を担当し、関連記事を執筆。相続や年金、介護など高齢化社会に関するテーマでも、広く編集を手掛ける。

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