ヘルプ ~心がつなぐストーリー~(The Help) --実は弱い人々に支えられている米国《宿輪純一のシネマ経済学》


 
 しかし、エイビリーンの親友で、ヒリーの家で働いていた個人メイド、ミニー(オクタヴィア・スペンサー)が、白人用のトイレを使用したために解雇されたことをきっかけに、エイビリーンはスキーターの取材に応じる。
 
 そして、黒人差別映画によくある展開ではあるが、数多くの勇気へと広がり、そのうち彼らの社会を大きく揺るがす事件へと発展していくことになる(個人的には、差別の問題は、「差別する側」が自らの心に問題を抱えており、その問題を弱い側に転嫁することで解決しようとするところに問題がある、と考えている)。

米国の映画に、黒人をはじめとして人種差別ものは多い。しかし、この数十年の米国経済の成長は、黒人やヒスパニック系の移民のおかげであるともいうことができる。現在、世界のほとんどの国では「経済成長」がその目標となっている(もちろん、ご存じ、ブータンのように国民総幸福量(GNH)を目標としている国もあるが)。
 
 この経済成長は、通常、GDP(国内総生産)で測る。GDPを単純化して因数分解すると、人口×資金量×知識(技術革新・構造改革)となる。欧州・日本、そして米国の白人社会の人口増加率はそれほど高くない。
 
 米国内では、黒人やヒスパニック系などの移民の人口増加率が高く、言うなれば米国は、国内に発展途上の新興国を1つ持っているようなものである。つまり、先進国にしてはいつも高めにある米国の経済成長率は、映画でも差別的対象として出てくる弱い立場である彼らによるところが大きいのである。

米国の経済分析のポイントの1つは、政党を見ることである。日本と違って政権が替わると経済政策が変わる。政策も議員が出すものがほとんどである。建国のときは自由を求めてやってきた自由主義者の共和党が全員であったが、弱い立場の人々を中心として民主党政権ができてきたという歴史がある。そのため民主党はやや「大きな政府」の傾向も持ち、そのため、景気が悪くなると民主党政権になりやすい。もっとも現在のオバマ政権はねじれ議会のため、なかなか政策が通らないが。

現在の米国民主党政権では、昔は差別の対象であり弱い立場であった黒人と女性が、大統領と国務長官となっている。米国の社会も着実に変わってきている。その内在的な変化力が米国経済の強さの1つであると筆者は考えている。



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2012年3月31日(土)TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー

しゅくわ・じゅんいち
博士(経済学)・映画評論家・慶應義塾大学経済学部非常勤講師・ボランティア公開講義「宿輪ゼミ」代表。1987年慶應義塾大学経済学部卒、富士銀行入行。シカゴなど海外勤務などを経て、98年UFJ(三和)銀行に移籍。企画部、UFJホールディングス他に勤務。非常勤講師として、東京大学大学院(3年)、(中国)清華大大学院、上智大学、早稲田大学(5年)等で教鞭。財務省・経産省・外務省等研究会委員を歴任。著書は、『ローマの休日とユーロの謎』(東洋経済新報社)、『通貨経済学入門』・『アジア金融システムの経済学』(以上、日本経済新聞出版社)他多数。公式サイト:http://www.shukuwa.jp/、Twitter:JUNICHISHUKUWA、facebook:junichishukuwa ※本稿の内容はすべて筆者個人の見解に基づくもので、所属する組織のものではありません。

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