セシウムによる健康被害を解明したベラルーシの科学者が会見、心臓や甲状腺への蓄積を深刻視
福島第一原発事故をきっかけに始まった福島県による「県民健康管理調査」--。同調査の進め方を議論する「県民健康管理調査検討委員会」が配布した資料には次のような記述がある。
「チェルノブイリ原発事故で唯一明らかにされたのは、放射性ヨウ素の内部被曝による小児の甲状腺がんの増加のみであり、その他の疾病の増加については認められていません」(昨年7月24日に開催された第3回検討委員会配布資料)。
こうした見解とは真っ向から異なる研究結果を盛り込んだ著書『放射性セシウムが人体に与える医学的生物学的影響--チェルノブイリ原発事故被曝の病理データ』(著者はユーリ・バンダジェフスキー・元ゴメリ医科大学学長)の日本語訳(合同出版刊)が刊行され、大きな注目を集めている。
同書に関心が持たれているのは、バンダジェフスキー氏による研究がほかに類を見ない独創性を持つうえ、その内容が衝撃的なことにある。
バンダジェフスキー博士やゴメリ医科大の研究スタッフは高濃度の放射性物質に汚染されたベラルーシのゴメリ州で死亡した400人を上回る患者の遺体を解剖。各臓器のセシウム137蓄積量を測定したうえで、特に心血管系疾患で死亡した患者の心筋に多くのセシウム137が蓄積されていたことを突き止めた。
「チェルノブイリ事故後に突然死した患者の剖検標本を検査したところ、99%の症例で心筋異常が存在することが明らかになった。とくに注目すべき所見は、びまん性(広範囲に広がっている状態)の心筋細胞の異常で、これはジストロフィー病変と壊死の形態をとり、毒作用が働いている証拠である」と同書は指摘。
「(ベラルーシの)ミンスクの子どもの体内セシウム137濃度は20ベクレル/キログラム以上であり、彼らの85%が心電図に病理学的変化を記録している」とも述べている。
国際放射線防護委員会(ICRP)が昨年4月4日に公表した「ICRP Publication111」(全文はhttp://www.icrp.org/docs/P111(Special%20Free%20Release).pdf)の21ページには、「1日に10ベクレルのセシウム137を摂取し続けた場合の体内での蓄積状況」についてグラフが示されている。
このグラフによれば、約500日で体内のセシウム137蓄積量は1400ベクレルに到達する。体重が50キログラムであると仮定した場合、1キログラム当たりの蓄積量は28ベクレルに相当する。
1日10ベクレルの摂取は、食品安全委員会が定めた4月からの新基準(一般食品の場合で1キログラム当たり100ベクレル以下、乳児用食品および牛乳の場合で1キログラム当たり50ベクレル以下)での許容量に照らしてもきわめて小さい数値だ。セシウム137を体内に摂取したことによる健康被害が、ごくわずかな摂取量から起こるとしたら、福島第一原発事故による影響はきわめて深刻になりかねないと言える。