日本企業はだいたい「市場の声」を聞き過ぎる だからiPhoneに完敗した

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もちろん日本企業にも、世界を席巻したイノベーションの例はある。たとえば任天堂の携帯型ゲーム機「ニンテンドーDS」シリーズ。それまでになかった2画面方式や、タッチペンを使って遊ぶ液晶タッチパネルなどが差別化の特長だ。技術的な性能のスペック(数値)を追い求めたものではなく、発想によって革新的な商品をつくって新たな需要を生み出した例といえる。

だが、日本の携帯電話端末メーカーを例に挙げれば、アップルや任天堂などのようなイノベーションは生み出せていない。この8年でアップルやサムスンなど世界との差はケタ違いに開いた。前述したように日本のスマホ市場におけるiPhone(アップル)のシェアは5割超。日本企業はソニーが17%弱で2位。それに京セラ、シャープ、富士通が続くものの、かつて10社以上あった“日の丸”携帯電話端末メーカーは、この4社を除き次々と撤退を強いられた。今さら取りざたする話でもないが、ホームグラウンドで「完敗」を喫したのだ。

「市場の声を聞く」ことは是か非か

なぜ日本メーカーからはイノベーションが生み出されにくいのだろうか。これには携帯電話端末メーカーに限った話でもなく、日本企業、日本人ビジネスパーソンの多くが陥りやすいワナがありそうだ。それは「市場の声を聞きすぎる」ことである。

多くの日本企業は積極的な市場調査を行う。アンケートやインタビューなどで消費者の生の声を拾うだけでなく、間に立っている販売店など流通者の意見も聞く。「聞かされる」という側面もあるかもしれない。

そして、日本人ビジネスパーソンの多くは、「消費者に支持される商品やサービスなどの開発を進める際には、作り手の論理を押しつける(プロダクト・アウト)のではなく、市場に聞いてそれに応える(マーケット・イン)のが望ましい」と教育されてきた。今ある市場ニーズに合致した商品やサービスをつくるのが正しいという考え方だ。

ところが、iPhoneを世に送り出したアップルの故スティーブ・ジョブス氏にまつわる過去のいくつかの文献や記事を探ってみた限りでいえば、ジョブズ氏は市場調査を重視してはいなかったようだ。今、消費者が持っているニーズを聞いてそれに答えるよりも、消費者が気づかなかった新たなニーズを作り出すことに重きを置いた。それがイノベーションの源泉になったといえるだろう。

ジョブズ氏は、経営者としてのリスクを厭わず、一度、アップルを追い出されているほど個性の強い人物だった。経営者だったが、たぐいまれな商品開発者だったともいえよう。だから、当初予定日に遅れても、納得のいく開発を優先し、しばしば商品の投入が遅れることもあった。通常の経営者であれば、これを許すことは滅多にないはずだ。

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