2012年日本の事業会社の信用力見通しは、引き続き弱含み<上>《ムーディーズの業界分析》

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2012年の信用力の見通し−格付けへの圧力は継続する

 日本の格付け対象の事業会社に対するネガティブな格付けトレンドは、今後も継続するであろう。これは、事業会社各社が、内需の弱さや輸出の減少に伴う厳しい事業環境に引き続き直面し、昨年3月の大震災以降の復興需要による成長が相殺されかねないと考えるからである。

さらに、継続する円高が日本の製造業の競争力を低下させており、また原子力発電の問題が未解決であることに伴う電力不足や値上げの懸念も、営業利益率を圧迫することになるかもしれない。欧州ソブリン財政危機に関する不安も、下方リスクとなろう。

格付けのトレンドは、格付け対象の大半のセクターで引き続き弱含みである。11年末時点でネガティブな方向にある格付けのうち、電力業界が35%、製造業が22%、鉄鋼、海運、家電がそれぞれ約9%を占めていた。

その他のセクターについては、ネガティブの見通しは、主として需給のアンバランスの拡大(特に海運、鉄鋼セクター)や、円高による競争力の低下など、市場環境が低調な中で、各社の悪化した財務内容が改善するのに予想よりも時間がかかるであろうとの見方を反映している。多額の負債による買収に伴う信用ファンダメンタルズの悪化を反映した事例もある。

格付けがポジティブな方向にある1%とは、日産自動車である。同社は10年7月以来、ポジティブの格付け見通しとなっている。これは、厳しい業界状況の中で相対的に高い信用力を維持する一因となっている、同社の事業の強靭さを反映したものである。

経済見通し

 ムーディーズは最近数カ月のうちに、主要経済地域の12年の実質GDP成長率予測を引き下げた。これは、米国の景気回復が想定よりも緩やかであること、ユーロ圏危機の悪化、不透明な金融市場、投資家心理の冷え込みなどを考慮したものである。

ムーディーズは、米国の成長率は約2%、ユーロ圏はごく小幅な成長ないし0%と予想。中国の成長率は11年の9%から8%に低下すると考えている。ムーディーズは、昨年3月の大震災および津波の後の復興を考慮し、日本の実質GDP成長率は約2%との見通しを維持しているが、ほかには予測を引き下げ、復興需要は長くは継続しないと見ている機関もある。

アジアに関しては、12年の成長率は一時鈍化するものの、ここ数年の成長率から大幅に低下することはない、とムーディーズは予想している。アジア地域内での貿易が増加している一方で、EUは引き続き重要な貿易相手地域となっている。ムーディーズは、08年後半から09年初頭のような金融市場の大規模な混乱が再び生じるとは予想していないが、世界の信用・貿易金融の機能不全のリスクは高まってきている。

欧州ソブリン債務危機が世界的な信用危機につながってしまった場合でも、アジアの大半の政府は良好な財政状態にあり、銀行システムも全般に強固な自己資本を維持していることから、08年から09年の金融危機の際と比較すれば、アジア地域が受ける影響の程度は小さいであろう。
ムーディーズは、中国経済についてはソフトランディングを予想。ユーロ圏危機が深刻化したとしても、中国ではインフレが沈静化してくるに従って景気刺激策の余地が拡大する。銀行セクターおよび地方政府のバランスシートからの偶発リスクに関連した不確実性はあるが、中国は依然として、08年後半から09年初頭にかけて行ったのと同様の内需拡大を通じて、輸出の減少を相殺することができるであろう。

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