2012年日本の事業会社の信用力見通しは、引き続き弱含み<上>《ムーディーズの業界分析》

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コーポレート・ファイナンス・グループ
格付け責任者 リチャード・ ビッテンベンダー
主任格付けアナリスト 廣瀬 和貞

サマリー:
 格付け対象の日本の事業会社は、2011年を通じてネガティブな格付けトレンドが続いた。ポジティブな格付けアクションが2件、ネガティブな格付けアクションが40件。電力・ガス業界と製造業に対するネガティブな格付けアクションが大きな部分を占めた。

日本の格付け対象事業会社は、引き続き厳しい事業環境に直面しており、ネガティブな格付けトレンドは12年も続く、とムーディーズは予想している。11年末時点において、格付け対象会社の26%がネガティブな方向にあったのに対し、ポジティブな方向にあったのは1%だけであった。11年末時点で「安定的」という見通しが付与されている格付けの比率は72%(前年末は81%)。 ネガティブな方向にある格付け対象会社のうち、特に電力会社が35%、製造業が22%を占めており、鉄鋼、海運、家電はそれぞれ約9%であった。
日本企業の2012年の主な課題
(1)世界の経済成長が減速する中での需要の減退、
(2)円高やそれに伴う高いコストによる競争力の低下、
(3)潜在的な電力値上げや復興増税に伴う法人減税の遅れによるコスト増の可能性。
 これらの要因は、復興需要による経済成長を相殺してしまうかもしれず、日本企業の収益や財務を圧迫する可能性がある。

以上の要因は、自動車、家電、海運といった業界に最も直接に影響するであろう。これらの業界は、厳しい競争環境や供給過剰といった要因にも影響されているからである。より長いサイクルの業界、たとえば総合電機や化学といった業界は、影響がより小さいであろう。とはいえ、財務リスク指標を改善していくには困難が伴うかもしれない。

日本の電力各社の格付けは、福島の原子力発電事故の解決がついていないことから、不確実性が残る。中長期的な電力制度改革の方向性も含めて、業界の規制環境の安定が格付けを決定づける最大の要因となるであろう。

2011年の格付けトレンドの概要

 11年の日本の事業会社の格付けのトレンドは、8月の日本国債の格下げに伴ったアクションの後もネガティブであった。ネガティブな格付けアクションが40件に対して、ポジティブな格付けアクションは2件のみ。ネガティブな格付けアクションが6件あった第3四半期(11年7~9月)と比較すると、第4四半期(同10~12月)には13件と、2倍以上の件数のネガティブなアクションがあったが、ポジティブな格付けアクションはなかった。

2011年の日本国債格下げに伴うアクションを除くと、電力・ガス業界(23%)と製造業(15%)がネガティブな格付けアクションの大部分を占めた。電力会社は3月の東日本大震災後の持続的な影響をいまだに受けている。

製造業に対するネガティブな格付けアクションは、サプライチェーンの問題や、円高、エンドマーケットの需要の減退といった厳しい事業環境のため、信用力の回復に予想よりも時間を要するであろう、との懸念によるものである。

図表1A:日本における2009年第1四半期~2011年第4四半期

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