2012年日本の事業会社の信用力見通しは、引き続き弱含み<上>《ムーディーズの業界分析》

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円高は日本企業の競争力を阻害する一方、海外買収の途も

 日本企業の業績は輸出拡大への依存度を高めているため、円高によって日本のメーカー、特に大規模な生産拠点を依然として国内に有するメーカーの競争環境は、引き続き厳しくなるであろう。

円は07年以降、一貫して上昇し続け、重要な輸出市場における日本のメーカーの競争力を大きく阻害してきた。特に、低コスト構造を持ち、ウォン安の恩恵を受ける韓国メーカーとは対照的な形となった。

ユーロ圏ソブリン危機の下での投資家の安全志向による資金流入から、円高は引き続き、12年における日本企業の主要課題の1つとなる、とムーディーズは見ている。

円高のマイナスの影響に対処すべく、日本の多くのメーカーはコスト効率向上を目的として、生産拠点の海外移転を実施、あるいは計画中である。こうした動きは国内における設備投資を減少させ、国内での雇用にマイナスの影響を与え、ひいては国内の消費の伸びをさらに圧迫することになるかもしれない。

生産拠点の海外移転、または生産の外部委託以外の選択肢としては、買収による拡大がある。多くの日本企業にとって、円高と低い借り入れコストは、買収を通じた投資のよい機会をもたらす。12年にはそうした戦略的買収が見られる、とムーディーズは予想している。

電力不足と増税によるコスト増の可能性

 原子力発電に関する政策は依然として不透明である。電力会社がより高コストの火力発電への依存度を高める中、日本企業は電力供給の逼迫、もしくは燃料費の上昇に直面するかもしれない。また、電力不足は、特にエネルギー消費の大きいメーカーの生産能力を圧迫し、設備投資や事業拡大にマイナスに作用する可能性がある。

増税も日本企業にとっての潜在的な懸念要因である。政府は、大震災と津波の被災地の再建を目的として、25年間で、主に所得税増税および法人税の税率引き下げ時期の繰り下げにより、10.5兆円を確保する案を提示。所得税および消費税の引き上げが実施されれば、すでに縮小している消費需要がさらに圧迫されることになろう。

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