起こるべくして起きたVW「排ガス不正」の真相 閉鎖的なのは役員会だけではなかった
昔からいろんなスキャンダルやペテンを見てきた自動車業界。それにしてもこれほど策を弄したようにみえる例はめったにない。米国の排ガス規制を回避するために、フォルクスワーゲン(VW)が高度のソフトウェアを用いるという厚顔無恥なまねをしていた。
まさかそんなことがこの会社で起きるなんて…と世界中の消費者も規制当局も当惑している。VWといえばドイツ最大の民間企業。昨年は売上高が2025億ユーロという世界最大の自動車メーカーだ。しかし同社の歴史、文化、そして会社機構を見てみると、なぜ今までこういうことが起こらなかったのかと不思議に思えるかもしれない。
「スキャンダルの温床となるような企業統治だった」とデラウェア大学ジョン・L・ワインバーグ企業統治センター所長のチャールズ・M・エルソン教授は言う。「起こるべくして起こった事故なのだ」。
お家騒動が絶えない
第二次大戦前にナチス政権下で国営企業として設立されたVWだが、今は同族支配でいて州政府が大株主、加えて労組も関与するという珍しい統治体制になっている。ドイツ国内でも「異色の存在だ」と、欧州の企業統治に詳しいマールブルク・フィリップス大学のマルクス・ロート教授は言う。「すったもんだが続いてきた」。
最近は実権を握るポルシェ家で数十年に及ぶ内紛があり、経営権奪取に向けて秘策が巡らされたかと思うと、役員会議室でクーデター発生という具合に、国内メディアの大衆紙誌に至るまで騒がせてきた。今週の南ドイツ新聞はその企業統治を北朝鮮の支配体制になぞらえて、「強権的でとっくに時代遅れ。機能する企業統治ではない」と指摘した。
今年の春に退陣を強いられるまで監査役会長として君臨していたフェルディナント・ピエヒ(78)はフェルディナント・ポルシェの孫だ。12人の子供を持つ。1993年にアウディ社での活躍を経て親会社VWの会長に就任した。世界で売り上げ1位になることを目標として掲げ、まさにそれが現実になった。だが彼はマルティン・ウィンターコルンCEOを排除しようとしたあげく、自身が4月に退任するという結果をみた。そのウィンターコルンも今週辞任を余儀なくされた。