給付削減に向けた年金改革、楽観的な経済前提を見直し、真の財政見通しを示せ

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実は、両者の計算はいずれも正しい。計算の前提を変えているだけなのである。

厚労省の試算では、物価上昇率1・0%、名目賃金上昇率2・5%、積立金の名目運用利回り4・1%などを前提にしている。これに対し鈴木教授の試算は、物価上昇率は同じだが、名目賃金上昇率は1・5%、名目運用利回りは2・1%とやや低い前提。重要なのは、どちらの前提がより現実に近いかということだ。

足元の状況を見ると、賃金上昇率はここ数年、マイナスが続く。今後、長期にわたって人口が減少する中では、それほど高い伸びは期待できないだろう。賃金が伸びなければ、それに比例する厚生年金の保険料も増えない。そのためにも、マクロ経済スライドによる年金額の抑制・削減は必要だが、その実施は厚労省の試算で想定した12年から遅れることが確実だ。こうした点だけ取っても、厚労省の前提はすでに現実から乖離している。年金総研の高山氏は、「運用利回り4・1%をはじめ、厚労省の経済前提は楽観的すぎる。早く見直すべきだ」と指摘する。

厚労省の経済前提には、高位、中位、低位の3パターンあり、現在の見通しは中位パターンを使って試算している。それでも楽観的すぎるわけだ。逆にいえば、楽観的な経済前提で試算しないと、「100年安心」を実現できないのだ。

今後100年にも及ぶ経済状況を正確に予測することは難しい。であれば、まずは楽観的な経済前提を見直し、より現実に近い複数の試算を国民に示したらどうか。抜本的な年金改革のためには、年金財政の実情を国民にさらけ出すことが必要だ。

(シニアライター:柿沼茂喜 =週刊東洋経済2011年12月17日号)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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