給付削減に向けた年金改革、楽観的な経済前提を見直し、真の財政見通しを示せ

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マクロ経済スライドは、毎年の年金の伸び率を物価や賃金の上昇率よりも低く抑える仕組みのことだ。物価スライドに代えてこの仕組みを続ければ、年金額は実質的に目減りしていく。04年の改革によって、公的年金は「今後100年間は安心」と厚生労働省はアピールした。

ところが、厚労省のもくろみはその後、完全に崩れてしまった。特例水準が解消されない間もしくはデフレ時には、物価スライドを優先的に適用するという“縛り”をマクロ経済スライドに対してかけたためだ。デフレが常態化した結果、マクロ経済スライドは現在まで一度も適用されていない。

この制度が導入された04年当時は07年から適用予定だったが、実現せず、09年の年金財政見通しでは、12年から適用されることになった。だが、適用がさらに遅れることは確実。そこで厚労省が打ち出した案が、特例水準の解消と、デフレ下でもマクロ経済スライドを適用できる仕組みだ。まず3~5年程度で特例水準を解消し、その後はデフレ下であってもマクロ経済スライドを適用するわけだ。デフレ時には、物価以上に年金額が下がることになる。

それだけではない。厚労省は、支給開始年齢の68歳への引き上げも狙っている。10月の社会保障審議会で突如、この案が公表され、国民からの猛反発を受けて先送りになったのは周知のとおりだ。00年の改革で決まったように、厚生年金の支給開始年齢は13年から25年にかけて段階的に65歳に引き上げられる。1961年4月2日以降生まれの男性(女性は5年遅れ)は、原則的に65歳からしか年金はもらえない。それがさらに68歳に引き上げられるということで、怒りが爆発したのだ。

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