津波需要で広がる原発ビジネス 中部電力・浜岡原発の防波壁工事
11月11日。中部電力は浜岡原子力発電所(静岡県御前崎市)の敷地内で、津波防波壁工事の起工式を行った。ちょうど8カ月前の3月11日、東日本大震災に伴う巨大津波で、東京電力の福島第一原発がほぼ壊滅。同月23日に中電は、大震災級の津波にも耐えられるような、コンクリート製の防波壁の設置を表明したのである。4月5日から準備段階として、地盤調査・測量・干渉物の移設工事を進め、9月22日には本体の準備工事に着手し、いよいよ本格化したわけだ。
この工事の特徴は、異例のハイスピードで行われる点にある。全長1・6キロメートルにわたる防波壁の設置は、当初計画では2014年3月期末の完成予定だった。しかし5月6日に状況が一変。当時の菅直人首相は、定期点検中だった浜岡原発3号機の運転再開延期、運転中だった4~5号機の運転停止を要請し、中電はこの要請を飲んだ。
運転再開の条件は「防波壁を含む津波対策の実施」で、再稼働を急ぐには、できるだけ工期を短縮することが必須だったのである。「当初はコンクリート構造を考えていた。だが工場で加工、それを持ち込み現場で組み立てて、工期を短くできる、鋼構造へと切り替えた」(発電本部土木建築部・原子力土建グループの石黒幸文部長)。
壁の部分は鋼材と鉄骨・鉄筋コンクリートの複合構造で、断面で見るとL字型の構造になる。「L」の左を海側に、右を陸側にすることによって、海から消波ブロックや砂丘堤防を乗り越えて津波が押し寄せた場合、倒れないで踏ん張ることができる。もし壁を乗り超えてしまっても、そこから滝のように降り注ぐ海水で地盤がえぐれ、防波壁を横倒しする「洗掘」を避けられる。
11月11日の着工式で。総額1000億円のプロジェクトに建設業界が注視する
目に見えない地中部分にも工夫を凝らしている。深さ10~30�の地点にある岩盤まで、6メートル間隔で200本以上の基礎(地中壁)を打ち込む、「地中連続壁基礎」を採用。この工法は道路・鉄道などの高架、煙突や鉄塔、擁壁などの基礎に使われるもので、これまで400以上の施工実績がある。大林組が東京スカイツリーの基礎部分に使用した工法としても有名だ。「重要なのは機能。津波を完全に防ぐという機能を発揮できなければ意味がない。そのため強度を最も重視した」(石黒部長)。