古くなった山手線はどこで使われるのか 中古車両の意外な「転職先」

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先頭車化改造によって新しいデザインとなった、仙石線用の205系。到着する駅は、津波被害により移設された東名

先述の通り、山手線用205系は「小窓」という特徴がある(6扉車を除く)。これは転用先でも変わってはいない。もし首都圏や仙台のJR東日本線で、客室窓の上下方向の大きさより乗降扉の窓の上下方向の大きさの方が小さい、ステンレス製の電車を見かけたら、山手線から「転勤」してきたものだと思ってよい。東日本大震災の津波で被災。廃車となった仙石線の電車は、この山手線からの転用車だった。

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南武線で最後の活躍をする205系。乗降扉の窓が小さいことが、山手線から移ってきたグループの証だ

また時が過ぎ、さらに省エネ性能にすぐれたE233系が完成。205系および、さらに一世代前の201系(主に中央快速線用)、203系(常磐緩行線・東京メトロ千代田線直通用)などの取り換え用として、2006年より新製が始まった。これはE231系とは違い、山手線へ投入→旧型車を転用という流れではなく、直接、取り換え対象車が走っている線区に投入されている。

205系を取り換えるために新製されたE233系としては、2010年に京葉線に入ったのが皮切り。その後、埼京線、横浜線と投入が続き、これらの線区では205系が一部の例外を除いて姿を消している。2015年8月現在では南武線へのE233系投入が続けられており、同線の205系は今秋をメドに引退する予定だ。

海を渡った205系

いよいよ「退職」の時を迎えたかにみえた205系ではあるけれど、意外な「再就職先」が現れた。

まず、山梨県の富士急行へ移った3両編成4本がある。これは京葉線を走っていた205系が譲渡されたものだが、4本中3本は、1985年、山手線へ最初に投入された40両のうちの一部。このグループは量産先行車と位置づけられていて、客室窓が外見上、「田」の字形をした二段窓をしているのが特徴だ。残る1本は一段窓の205系量産車だが、これも「小窓」の、元山手線用である。

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インドネシアのジャカルタ近郊で通勤輸送に活躍する、元JR東日本の205系電車。(著作権者:Muhammad Pascal Fajrin、ライセンス:CC by-sa 国際、https://commons.wikimedia.org/wiki/File:205-137F.jpg?uselang=ja)

さらに、インドネシアへも多くの205系が渡った。ジャカルタ首都圏の通勤電車ネットワーク「KRLジャボタベック」は、電車不足を日本の通勤電車の中古車によってまかなう方針を取り、2000年以降、東京メトロ、都営地下鉄、JR東日本、東急電鉄などから、大量の電車を購入。小規模な改造を行っただけで使用している。

これらは単に不要となった電車を譲り渡しただけではなく、日本の鉄道会社からは整備・点検方式の技術支援や、ODAによる車両基地の建設など、トータルパッケージでの「輸出」が実施されている。以前は、「壊れたら修理する」という体制であったのが、定期的な点検を行い、部品を適切に交換することで故障を予防するという日本式の車両保守も、インドネシアへと伝えられた。

205系は2013年より、まず埼京線、横浜線を走っていたグループがインドネシアへ行って、活躍を始めている。現地でも「205」と呼称されており、老朽化した元都営地下鉄6000形(先代の三田線用電車)の取り換えに用いられているとのこと。

現在では、南武線用205系のインドネシアへの輸出が続いている。これが完了すると、約470両の205系がジャカルタ近郊で活躍することになる。その中には、もちろん、山手線を走っていた電車も含まれる。

土屋 武之 鉄道ジャーナリスト

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つちや たけゆき / Takeyuki Tsuchiya

1965年生まれ。『鉄道ジャーナル』のルポを毎号担当。震災被害を受けた鉄道の取材も精力的に行う。著書に『鉄道の未来予想図』『きっぷのルール ハンドブック』など。

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