内閣府がひた隠す2020年度収支のカラクリ 赤字額9.4兆円から6.2兆円に「急減」のナゼ

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今見てきたように、今回の7月試算で3.2兆円の収支「改善」の要因としてより大きいのは、歳出抑制によるものである。

同試算では、「骨太の方針2015」に盛り込まれた「歳出改革の方針」を、2016年度の歳出見通しには反映している。ただし、2017年度以降は、追加的な歳出改革の効果を試算には反映しない、としている。これは、あくまでも試算上の仮定であって、2017年度以降に歳出改革を行わないと決めたわけではない。

ここでいう、歳出改革の方針とは、「安倍内閣のこれまでの取り組みを基調として、社会保障の高齢化による増加分を除き、人口減少や賃金・物価動向等を踏まえつつ、増加を前提とせず歳出改革に取り組む」ということである。

たった1年度だけの歳出改革だけでも1.8兆円の効果

要するに、「骨太の方針2015」に盛り込まれた歳出改革の方針を、2016年度だけ実行して2020年度を迎えた場合、どの程度の歳出抑制効果が上がるかが、今回の7月試算で示されたといえる。

その結果が、筆者の推計では、1.8兆円の収支「改善」だった。たった1年度だけ歳出改革を実施してもそれだけの効果が上がる。2017年度以降も継続すれば、もっと効果が出る。

今回の「中長期試算」の改訂で明らかになったことは、直近の税の自然増収を反映した結果3.2兆円もの収支「改善」となったわけではなく、経済成長によって期待される税収増よりも、1年度だけ実施した歳出改革の方が収支改善の効果が大きいということである。

もちろん、今回の「中長期試算」でも、2020年度の基礎的財政収支はまだ6.2兆円の赤字となる見通しである。さらなる歳出改革が求められることに変わりはない。
 

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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