歴史に消えた参謀 吉田茂の軍事顧問 辰巳栄一 湯浅博著 ~戦中は学童疎開に尽力 自衛隊「産みの親」の戦後

歴史に消えた参謀 吉田茂の軍事顧問 辰巳栄一 湯浅博著 ~戦中は学童疎開に尽力 自衛隊「産みの親」の戦後

評者 塩田 潮 ノンフィクション作家

戦後まもない1946年に首相となった吉田茂は、側近の白洲次郎、戦前の駐英大使時代の部下の寺崎太郎、大使館付武官だった辰巳栄一元中将を密かに呼び集めた。「ロンドン人脈の再結集」と著者は解説する(第七章)。本書はその一人、「吉田の秘密軍事顧問」となった辰巳を軸に、昭和史の謎を追ったノンフィクションである。

現在の自衛隊の「事実上の産みの親」といわれた人物だが、「彼の戦前戦後を通じた全人像を描いた書物がないことに気づいた。誰かが記録しないと、やがて、歴史の彼方に消えてしまう」(まえがき)と焦燥感を抱いた産経新聞論説委員の著者が、新聞での長期連載を含め約2年をかけて取り組んだ。

辰巳は戦前、日独防共協定反対の吉田の説得という陸軍の密命でロンドンに赴任するが、吉田に説得されて英米派となる。戦争中は学童疎開の実現に尽力し、40万人の子供を救った。

吉田は戦後、アメリカ製憲法を受け入れ、占領下で「富国・軽軍備」路線を推し進めた。だが、東西冷戦の激化で「情報機関」と「軍」の必要性を痛感する。「情報」にも明るい辰巳に両面の秘密工作を託した。辰巳は「政府公認でない仕事」を担う「二つの顔を持つ男」として戦後史に大きな足跡を残した。

一方で、辰巳は吉田に再軍備と憲法改正を訴え続けた。首相在任中、耳を貸さなかった吉田は退陣の10年後、「今となってみれば、深く反省している」と辰巳に告げたという。そこに至る舞台裏の攻防、吉田と辰巳の哲学と姿勢、戦後体制の誕生とその矛盾などを、「歴史に消えた参謀」の生涯を軸に、克明に追跡していて興味深い。

著者の取材力と関係者の深い信頼、一級の史料の発掘と鑑定眼、揺るがない視点と視座が結実して骨太の長編が誕生した。

ゆあさ・ひろし
産経新聞特別記者・論説委員。1948年生まれ。中央大学法学部卒業、米プリンストン大学Mid−career Program修了。産経新聞入社後に経済部、外信部次長、ワシントン支局長、シンガポール支局長などを経る。2002年7月から現職。

産経新聞出版 1890円 362ページ

  

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