日経新聞のFT買収、「経済合理性」に疑問あり

金銭的な観点から妥当かどうかは疑わしい

 7月23日、日本経済新聞社は、英FTの買収で大胆な一歩を踏み出したが、13億ドルでの買収が果たして金銭的な観点から妥当かどうかは疑わしい。写真はFTの本社。ロンドンで撮影(2015年 ロイター/Peter Nicholls)

[ニューヨーク 23日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 日本経済新聞社は、英国の経済紙フィナンシャル・タイムズ・グループ(FT)の買収で大胆な一歩を踏み出した。だがFTを親会社ピアソン<PSON.L>から13億ドルで買い取ることが、果たして金銭的な観点から妥当かどうかは疑わしい。

日経は相当大きな名声を手に入れるのは確かだ。しかし冷徹な経済合理性だけを考えるなら、調整後営業利益の35倍、そして実質価値のおよそ3倍の金額を支払ったことになる。

他の欧州系メディアの株価は、調整後営業利益の10─15倍で取引され、平均は12倍だ。買い手がそれなりのプレミアムを乗せるのは予想されるとはいえ、FTの場合、調整後営業利益に対する買収額の倍率は、米アマゾン・ドット・コム<AMZN.O>が2013年にワシントン・ポスト紙買収で所有者グラハム一族に支払った金額の2倍前後にもなる。

こうした目の飛び出るような高額のプレミアムは、FTの財務面での先行きが不透明な点からすれば、なおさら驚かされる。デジタル化に向けた最初の関門をほぼ突破したFTは、これから着実な増収を確保する道筋を発見していく可能性はある。ただしこれまでの業界全般の流れは読者と広告主のマスメディア離れの加速化であり、デジタル化の取り組みは紙媒体と同じだけの成果を生み出せていない。

FTはかなり順調な歩みをたどってきた。電子版の購読を先駆的に導入した新聞の1つであり、現在は72万人の購読者の70%を電子版が占める。FTの14年の収入が約5億1800万ドル、営業利益は3700万ドルに上ったことも公表されている。一方でピアソンは、FTがどれだけ収入ないし営業利益を伸ばしてきたかについては、詳細を明らかにしていない。

ピアソンにとっては、FTの売却で報道機関の経営をめぐる諸問題への対応を日経に任せ、教育市場に全力を注ぐことができるようになる。

日経はといえば、高い評価を得ているグローバルブランドを手中にし、英語圏の読者層を取り込むチャンスも得られる。FTによって新たな市場への道が開かれ、既に事業展開している分野でも別の市場を開拓する機会をもたらす面もあるだろう。

それでもこれほど高額の買収となれば、元を取るには異例なほどの企業努力が求められる。日経は経費節減を通じて投資の一部を回収しようとする可能性はあるが、そうした取り組みは長期的に見ると、せっかく大枚をはたいて手に入れたFTの名声を損なってしまうかもしれない。

背景となるニュース

◎日本経済新聞社は23日、FTを買収することで、親会社の英ピアソンと合意した。全額現金の13億ドルで買い取る。

◎買収対象にはFTのロンドン本社やピアソンが保有する英エコノミスト誌の株式50%は含まれていない。

◎買収手続きは規制当局の承認を経た上で第4・四半期中に完了する見通し。

*筆者のJennifer Sabaは「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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