「若者はかわいそう論」のウソ 海老原嗣生著

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日本社会が抱える構造的問題は、円高のように日本一国の政策では抗しがたいものもある。少子高齢化に歯止めをかけるのも難しい。

しかしゆとり教育、無試験入試、大学の増設のように、意図的に行われたものもある。ゆとり教育や無試験入試の背景はまだ理解できる。わからないのは極端な大学増設だ。望めば誰でも大学生になれる社会は異常だ。日本は人的資本を劣化させ、雇用のミスマッチを生じさせているのだと思う。

問題を解決するための具体的な施策にも本書は踏み込んでいる。まず25年期限の外国人労働者受け入れ、次に職域や地域限定の「新型正社員」、そして大学を「補習の府」にし、「公的派遣」という新スキームを作ること。

これらの施策に興味を持つ人は本書を読んでもらいたい。いずれも説得力がある。たぶん効用は大きいだろう。

外国人労働者を毎年10万人受け入れるという施策については反対の人も多いだろう。しかし今何とかなっているから明日も何とかなるはずはない。著者は触れていないが、高齢者介護によって多くの労働力がこれから必要になる。

筆者は東日本大震災の被災者を見て、あらためて高齢化を実感した。しかしよく考えてみるとまだ高齢化の入り口に立っているだけだ。総務省発表の10年9月15日の65歳以上の推計人口は2944万人。しかし14年には団塊の世代(664万人)が65歳以上に達するから、3500万人を超えてしまう。

そして団塊の世代は2024年に後期高齢者年齢になる。かなり多くの人が要介護になるだろう。そして労働力は医療、介護に奪われて足りなくなる。こういう社会が十数年後にやってくる。そんな将来への備えを固めなくてはならないと思う。海老原氏の外国人労働者受け入れは25年の期間限定としているが、移民としての受け入れも視野に入れる
べきかもしれない。

(HRプロ嘱託研究員:佃光博=東洋経済HRオンライン)

扶桑社新書 798円

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