経常収支の不均衡の拡大、米国の「涙のない赤字」がついに限界に来た~米国債格下げが意味するもの--三國陽夫・三國事務所代表/エコノミスト

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 次に、円をドルに交換してしまうので、日銀当座預金が不足する。購買力の低下と、流動性の不足が国内の消費や投資を減らし、それがまた、所得の減少を通じて消費や投資を減らすというマイナスの乗数効果が働き、デフレ圧力となる。
 
 これを抑えるために、日銀が金融緩和を行ってきたが、経常黒字が集積していくにしたがって、その効果が薄れていく。限界に達すると、金融緩和策は効かなくなる。
 
 これが、ゼロ金利のもとで、法定準備預金を超える準備預金が日銀の口座に置かれたままになるいわゆる「ブタ積み」や30兆円あると推定される家計の「タンス預金」の背景だ。

戦後の日本は、円が1ドル=360円、1ポンド=1008円から出発した。いま、円の価値は対ドルで5倍近く、対ポンドで10倍になった。これだけ円高になったのは外貨を稼ぐという政策が成功したということだ。
 
 変動相場制のもとでは、輸出政策が成功すれば円高になるのは当たり前のことだ。ドルを円に換えずに、ドルのまま置き続けると前述のように、デフレ・低成長になる。1ドル=70~75円になれば、米国と日本の賃金がほぼ拮抗するので、輸出はできなくなってくる。

日本は円高の下でもコストダウンを続けて輸出をしている。ドルを持ち続けて支えているから苦しい。これを支えるために、平成の借金王とされる小渕首相時代には、公共工事で財政赤字を膨らませた。一方、米国は輪転機を回してマネーゲームで稼いだ。いまは輪転機どころかキーボードを叩くだけという状態だ。

輸入の拡大とTFP(全要素生産性)の引き上げが求められる

--今後の日本に求められる対応策は。

日本の将来については、私は強気の見方をしている。現在、円高の進行や原子力発電の停止による電力供給の制約で、米国への輸出が減り始めている。これは大きな変化だ。米国は消費を抑えて、借金の返済に努力せざるを得ず、日本は供給力に限界が生じて輸入を増やさざるを得ない。

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